会社でも学校でも、ブレインストーミングはよく行われることと思います。
この稿では、ブレストでアイデアを出す時の定石とツールを紹介します。
ただ単に会議室に集まって、エライ人が「アイデア出せ」というのはブレストとはいいません。
はじめに
しばらくブログを更新していませんでした。
「こどもとスマホ」というボランティアのプロジェクトが大詰めであった、ということがその理由の一つです。
こちらのプロジェクトを立ち上げたきっかけは、「姪っ子PCプロジェクト」(その1、その2)の際に「果たして、PCを買ってあげて、インターネットを設定してあげて、『はい、どうぞ』でいいのか?」と思ったことがきっかけです。
友達や先輩に声がけして、一年半で先のサイトのような形になりました。
このシリーズでは、プロジェクトで経験したことのなかで、このブログのテーマに合ったトピックを書いていきたいと思います。
最初の稿はブレストとKJ法の方法論と準備についてです。
ブレストとは
ブレスト、ブレインストーミングという言葉は、会社でも学校でもボランティアのコミュニティでもよく使うと思います。
しかし案外正しく行われておらず、効果が出ていない場合がままあります。
ありがちな失敗
何となく「ブレスト」を行っていて、陥りがちなのは以下の2点です。
エライ人が仕切りがち
「ブレスト」と言いつつ、エライ人が仕切って自分の考えを強調したり、他の人の考えを評価するのはブレストではありません。委縮してアイデアは出にくくなります。
やって満足しがち
「ブレスト」を行った、あるいはKJ法まで行って整理して写真を撮ったとして、そこで満足しがちです。
やらないより良いのでしょうが、後工程に展開したり、知識として残すことを考える必要があります。
ブレインストーミング
ブレインストーミングは、オズボーンというアメリカの人が考えたグループでアイデアを出す方法です。
ブレストにはルールが有ります。
- 質より量:質は問わず、多くのアイデアを出す。
- 自由奔放:バカなアイデアも大歓迎。
- 批判厳禁:アイデアを批判、批評しない。
- 結合改善:他人のアイデアに乗っかって、さらにアイデアをだす。
アイデアを選択する絞り込みは後工程ですので、とにかく思考を発散して数を出すことが目標です。
メンバーに慣れていない人がいるうちは、このルールを最初に確認するか貼り出しておいた方がよいでしょう。失敗に挙げたように、批評はしがちです。
以上では「アイデア」と書きました。しかし、次のKJ法で述べますように、実際に付箋に書き出すのはアイデアだけではありません。観察した事象、問題・課題、疑問、社会動向など、テーマに関連しそうなものは何でも書き出すことになります。
KJ法
KJ法は文化人類学者の川喜田二郎先生が考えたデータをまとめて新しい発想を得る方法です。
文化人類学者は、未知の文化の人々が暮らす地域に入り、一緒に生活します(参与観察)。そして気がついたことすべてをフィールドノートに書き留めていきます。
帰ってきた後に、フィールドノートの内容をカード(付箋)に書き出します。
それらの膨大なカードを整理するのがKJ法です。ざっくり言うと以下のステップです。
- 関連しそうなカード同士を、模造紙などの上で近くに置いていく。
- カードがまとまったら、線でくくってグループにする。
- グループにラベルをつける。
- グループ同士の関連性などを書き込む。
グループのラベルや関連性が、新しい発想になります。
詳しくは、オリジナルの文献である、中公新書の「発想法~創造性開発のために」「続・発想法~KJ法の展開と応用」(いずれも川喜田二郎著)をご参照下さい。
KJ法のやり方は検索しても出てくると思いますが、実際のところは数回やってみないと感覚がつかめません。
結果を残す
KJ法のアウトプットは模造紙に付箋が貼られて、線などが書き込まれたものです。
デジカメなどで写真をとって残すことがほとんどだと思います。付箋を集めて保存することもあるかもしれません。(オリジナルではカードですので、必ず残します。)
紙媒体ですと、いずれ廃棄します。写真は残りますが、後工程との関係がわかりにくい、といいう難点があります。
結局のところ、付箋をすべてデジタルのテキストに起こすのがベストです。現在のところ手打ちしか方法がないので面倒ですが。
具体的には、次回の事例紹介で示したいと思います。
その他
時間としては、一般の会議のように、一回2時間くらいまでが適当だと思います。煮詰まりますので。必要に応じて何回かセッションを持ちます。
ワイガヤです。(「ワイワイガヤガヤ話し合う」というホンダの言葉。)
場所を変えたりするのも良いかもしれませんね。
準備するもの
アイデアの書き出しには、整理に便利な付箋(ポストイットなど)をよく使います。
付箋
付箋は小さいと書ききれませんし、大きいと整理するときに貼りきれなくなりますから、適当な大きさがよいです。私は75mm×50mmのものをよく使います。
色は、アイデア用と、ラベル用の2色が必要です。
模造紙
ホワイトボードに付箋を貼ってもよいとは思いますが、KJ法で整理するとき3人くらいまでしかできません。
その点模造紙を机に置けば、8人くらいは取り囲んで一緒に作業できます。しかも、ホワイトボードは表裏と2面までですが、模造紙は整理し終わったものを壁に貼っていけば何面でも、模造紙の枚数だけできます。
会社だと模造紙でよいのですが、出先でKJ法をするときに模造紙を丸めて持ち運ぶのは面倒です。
模造紙ほど大きくないですが、Too社の「PMパッド」というノート?があります。私はこれのB3版を使っています。2つに曲げればカバンに入りますし、50枚綴なので結構長持ちしてお薦めです。
余談ですが、このPMパッド。ファシリテーションの本によく「フリップチャート」というものを使うと書いていて、そんなものがあるのかと東急ハンズに探しに行って見つけました。(ハンズの店員さんに聞いたところ「フリップチャートというものは扱っていない」とのことでした。)
Amazonで売っているイーゼルやフリップチャートは高いので、その替わりにもお薦めです。
マスキングテープ
模造紙が丸まらないように机に止めたり、整理ができた紙を壁に貼ったりするときに使います。
セロハンテープだと跡が残ります。養生テープでも良いのでしょうが、小さくて燃えるゴミとして捨てられるマスキングテープを私は使っています。
ラベルシール
直径9mmくらいの、丸い色付きのシールです。必須ではありませんが、付箋の色を変える替わりに使っています。
付箋をその場で分類しておいたほうが楽だな、と思ったときに、分類に対して決めた色のシールを貼っておきます。
デジカメと筆記用具
途中経過や結果をデジカメで撮影したりします。スマホでOK。
筆記用具は、鉛筆だと写真に写らなかったり、中太のサインペンだと太くて書きにくかったりします。太めのボールペンか細めのサインペンくらいが良いでしょうか。
発想法
ブレストのはじめのうちは、特に何も使わなくとも付箋出しをしていけます。(アイデア等を付箋に書くことを「付箋出し」と言うことにします。アイデア以外も書きますから。)
しかしそのうちに煮詰まって、付箋がなかなか出なくなります。
ここでは、そのようなときに使う発想法(フレームワーク、ツール)を紹介します。
頭のなかでの発想法
出された付箋を眺めながら、個人個人が頭の中で使うツールです。キーワードに従って既存のモノやアイデア、出された付箋を変換し、新しいアイデアを発想します。
いろいろ有りますが、おおよそ共通しています。ここでは2つだけ、表で簡単に示します。
印刷して配っておいても良いかもしれません。
オズボーンのチェックリスト
1 | 転用(Put it other use?) | そのまま他の分野に使えないか? |
2 | 応用(Adapt) | 他の分野から、改良したりして応用できないか? |
3 | 変更(Modify) | 特性(色、形、目的、原料etc.)を変えてみたら? |
4 | 拡大(Magnify) | 拡大(大きく、強く、速く、高くetc.)してみたら? |
5 | 縮小(Minify) | 縮小(小さく、弱く、遅く、低くetc.)してみたら? |
6 | 代用(Substitute) | 他のもの(ヒト、モノ、素材、方法etc.)を使ったら? |
7 | 再配置(Rearrange) | 要素などを入れ替えてみたら? |
8 | 逆(Reverse) | 考え方、順序、方向etc.を逆にしてみたら? |
9 | 結合(Combine) | 機能、モノ、アイデアetc.をくっつけてみたら? |
SCAMPER
オズボーンのチェックリストを覚えやすくしたものです。頭文字をとってSCAMPER。
(私にとっては覚えやすいものではありません。英語に弱いですから。(;´д`)トホホ)
S | Substitute(代用) | 他のもの(ヒト、モノ、素材、方法etc.)を使ったら? |
C | Combine(結合) | 機能、モノ、アイデアをくっつけてみたら? |
A | Adapt(適応) | 他の分野から、改良したりして応用できないか? |
M | Modify(変更) | 特性(色、形、目的、原料、大きさ、強さ、速さetc.)を変えてみたら? |
P | Put other purposes(転用) | 他の目的、分野に使えないか? |
E | Eliminate(削除) | 特性(目的、原料、機能)や部分を削除してみたら? |
R | Rearrange/Reverse(再配置/逆) | 考え方、順序、方向etc.を逆にしたり、入れ替えてみたら? |
他にも、畑村洋太郎先生の「思考演算」があります。TRIZで使う方法もそうかも。
ブレイン・ライティング
ブレイン・ライティングとは、グループで強制発想する方法です。質より量、結合改善のルールを促進する効果があります。
ブレストの最初から使います。
準備
付箋を敷き詰める紙を、少なくとも人数分用意しておきます。A4のコピー紙(裏紙)でOKです。
例えばA4の紙と75mmx50mmの付箋を使う場合、紙を縦に使うと付箋が3列6行に敷き詰められます。横に使う場合は4列5行になります。
また、タイマーもあった方がよいでしょう。(スマホアプリでOK。)
進め方
進め方は以下の通りです。
- 紙をメンバー全員に配ります。(以下A4の紙を縦に使う場合です。)
- メンバーは、紙の上辺に付箋を3枚並べて貼ります。
- タイマーを1分にセットし、スタートします。
- スタートの合図で、メンバーは貼った3枚の付箋を書きます。その際、列の上下に他の人が書いた付箋があるときは、関係するようなことを考えます。思いつかなかったら、まったく新しい内容でも構いません。
- タイマーが鳴ったら終了です。書き始めている付箋は完成させます。もし3枚とも書けない場合は白紙で結構です。
- 自分が書いた付箋の行の下に、3枚新たな付箋を貼ります。6巡目など、もう下に付箋の行が作れない場合は、一番上の付箋の行の上に重ねて貼ります。(以降は付箋を重ねていきますが、白紙の付箋の上に重ねる必要はありません。)
- 紙を左隣の人に回します。各メンバーは、他のメンバーが書いた付箋が見られます。
- 3から7を、煮詰まるか、既定の時間になるまで繰り返します。
以上のように、各メンバーは既定の時間内(1分)に、既定の枚数(3枚)の付箋を出すことを強制されます。そして他のメンバーが書いた付箋を見て、それに乗っかってアイデアを出すことができます。
対話法
対話でアイデアを発想したり練ったりすることはソクラテスの時代からありますし、誰もが経験していることです。畑村洋太郎先生も創造学の中で挙げられています。
ここでは、私がファシリテーターのときに行っている方法をご紹介します。
対話の時間
最初は黙々と付箋を出しますが、そのうち出なくなります。ブレインライティングはそのうち終了します。
各々の付箋を読み上げたり、KJ法で並べ始めたりしますと自然に対話が始まります。そのワイガヤ自体が対話法です。
ファシリテーターの仕事
ファシリテーターはワイガヤをリードしたりしますが、対話の中で出てきたアイデア、観察した現象、問題・課題、社会情勢などの付箋として出すべきことを、メンバーの代わりに付箋に出して貼っていきます。これだけです。
理由
対話法の冒頭に示しましたように、対話によって自然と頭の引き出しが開いたり、アイデアが結合したりされます。付箋に出すべき情報だらけです。
しかしメンバーは対話に夢中ですので付箋には書きませんし、付箋に書かせて対話を止めるのももったいないです。
ですので、ファシリテーターが対話を注意深く聞き、メンバーに代わって付箋を出していきます。
まとめ
以上、ブレスト&KJ法の定義と基本、準備するもの、発想法をまとめました。
既にブレスト&KJ法をやったことのある方は、参考になる道具や方法があったかもしれませんが、やったことのない方はピンと来ないと思います。
次回は実際にプロジェクト「こどもとスマホ」で行った方法を、写真を交えて紹介したいと思います。