ブレストとKJ法 実践編:こどもとスマホ記(その2)

ブレストとKJ法の実践編として、実際にこれらの方法を活用した事例をご紹介いたします。

「こどもとスマホ」プロジェクトでは、付箋をデジタルのテキストに打ちなおすことで「ブレストをして満足しがち」な罠を回避して後工程につなげています。

はじめに

前回は準備編として、ブレスト&KJ法の定義、定石、準備品、ツールを示しました。(今回も登場する「対話法」などは、前回をご参照ください。)

今回は、実践編として「こどもとスマホ」のプロジェクトで行ったブレスト&KJ法を写真を交えてご紹介いたします。

プロジェクトとブレスト&KJ法

プロジェクトの概要は「About us」のページをご参照ください。

プロジェクトの目的

プロジェクトの目的などは、ざっくり以下の通りです。

  • 問題意識:「ネット端末を子供に与え、それで終わりで良いのか?」
  • テーマ:「子供とインターネットの関わり」
  • 目的:ツール(活用できるPDF文章)の作成

関連する情報を網羅的に抽出し整理したい、ということで、ブレスト&KJ法をすることにしました。

ブレスト&KJ法の経緯

2014年2月からの3回のミーティングにて付箋出しを行いました。

続く2014年5月からの2回のミーティングにてKJ法での整理を行いました。

7月はまとめたものをレビューしました。

ブレスト&KJ法だけで、月1回、2時間のミーティングを計6回行ったことになります。固定メンバーは4人くらいで、あとは入れ代わり立ち代わりで、いろいろな人が参加しています。

付箋出し

1回目から3回目までのミーティングでは付箋出しを行いました。

第1回ミーティング

最初のミーティングのブレストでは、以下のように進めました。

  • オズボーンのルールの確認。
  • 黙々と付箋を出す。ラベルシールで分類しながら。
  • フリートーキング(対話法)

SCAMPERやブレイン・ライティングのようなツールは示しませんでした。

「身近な出来事」が大事で、それを出すことを優先しました。

下は、第一回のミーティングで出した付箋の写真です。

ここで気が付いたことは、知っていると思ってつい口に出してしまうネット用語やスラングが、案外知られていないということでした。以降はそのような用語も「その他インフォメーション」として付箋にしていきました。

付箋の数の目標は200枚としました。一般的にもこのあたりが目標値になります。

第1回のミーティングでは約90枚の付箋が出ました。

第2回、第3回のミーティング

2回目、3回目はテーマを2つくらいずつに絞り、フリートーキングをしました。対話法で付箋を増やしていきました。

3回目のミーティングまでには約170枚の付箋がでました。

付箋のテキスト化

第1回のミーティングの後、思いついたときにスマートフォンなどからも付箋出しができるようにWEBアプリを試作しました。ネット経由の賛同される方もブレストに参加できるように、という気持ちもありました。

しかし実際に利用した人は私くらいでした。(^^;

ミーティングで出た付箋もすべてここに入力しました。付箋のテキスト化はここで行ったことになります。

一旦テキスト化してしまえば、ExcelでもXMLでも、適当なフォーマットにエクスポート可能になります。下はExcelにエクスポートした付箋のデータです。

KJ法での整理

4回目のミーティングから整理をしました。しかしこのプロジェクトでは、オリジナルの方法からかなりアレンジしています。

テーマを絞る

全ての付箋をワイガヤでグルーピングしていくのが本来の方法です。

しかしここでは、4回目はテーマを「コミュニケーション」に、5回目はテーマを「ネット依存」に絞りました。

この2つのテーマは、プロジェクトを立ち上げるに当たってのプレミーティングにて、「専門家ではない我々には無理」という理由でスコープから外す、としていたテーマでした。

しかし関連する付箋は少なくありません。難しい問題ですが、これに絞ってまとめてみることにしました。

デジタルとアナログの融合

先に述べましたように、3回目までに出した付箋はデジタル化されています。またWEBアプリで入力した、最初からデジタルの付箋もあります。

WEBアプリに印刷用のレイアウト機能を実装し、これらを印刷して付箋にしました。

印刷したA4の紙の裏面に「貼ってはがせるテープのり」を適当に付けておいてから、カッターで切ります。

コンパクトな付箋の出来上がりです。

(この「貼ってはがせるテープのり」ですが、のりが模造紙側に残ってしまうことが結構ありました。下面は剥がれないのり、上面が剥がれるのりのハイブリッドだったらいいのに、と思いました。コクヨさん、お願いします。m(_ _)m)

これを模造紙の上に並べて行って、尚且つ対話法で付箋も増えますので、下のような状態になります。

増えた付箋も、ミーティングの後にWEBアプリに入力していきました。

残りのテーマ

難しいテーマを皆で整理してみると、どう整理したらよいかが見えてきます。残りはそう難しくなさそうです。

ということで効率を上げるためにワイガヤはここまでにしました。

(繰り返しになりますが、本来はワイガヤが望ましいです。)

さらなる整理

このプロジェクトでは、ここまでですべての付箋がテキストになっています。

個人が机上で再整理することも可能です。

机上での整理

ワイガヤで整理した模造紙の写真をもとに、PC上でさらに構造的に整理をしました。

下のように、左から背景・要因、事例、論点、対策の列を作り、各問題を行にしてまとめてみました。

問題は様々ありますが、その背景や要因には共通しているものがあることがわかりました。

対策にも、それぞれの問題への対策と、そもそもの要因に対する対策がありそうです。

またこのまとめを見ると、付箋がない空白があります。例えば「対策」が空白であり、ここにもっとアイデアがほしいことがわかります。

ツールについて

机上での整理には、MS PowerPointを使っています。
マクロを組んでおり、Excelの付箋データをインポートすると付箋のオブジェクトになります。また新しい付箋を入力することも可能です。

このPowerPointファイル、皆様がお試しできるようシェアしようかとも思いましたが、現在私も開けない状態です。(前のPCでした自己署名が信頼されていない…。)

またWEBアプリも当初デプロイしていたドメインがなくなってしまいましたので、皆様にご覧いただけません。(´・ω・`)

最終的なまとめ

6回目のミーティングにて、以上のまとめをレビューしました。

そこでの指摘を反映させて、KJ法での整理を終了としました。最終的なまとめを下に示します。

この5ページ目「コミュニケーション1」のページと、先の「机上での整理」の写真を比べて頂きますと、空白(すなわちドキュメント化に際して埋めたいところ)に白い色の付箋が追加されていることがわかります。

ここまでできれば、次のドキュメンテーション工程への十分なインプットになります。

尚、最終的に出した付箋の数は204枚でした。

その後

以上の中間成果物をもとに書き起こしたのが「インターネットとの関わり方を考えるためのハンドブック」になります。2014年9月の時点でほぼこの形にまとまりました。

しかしこれでは「子供にわかりづらい」という課題がありました。これが壁となりプロジェクトは4か月沈黙することになります。

「寝かせる」「塩漬けにする」というのも、創造には重要になることがあります。これについては、また商品企画編にて触れたいと思います。

まとめ

以上のプロジェクトにおける、ブレスト&KJ法の経験をまとめます。

オリジナルのKJ法との対応

そもそものKJ法では、文化人類学や社会学の参与観察で作成したフィールドノートからカードを起こします。このプロジェクトでは、その代わりにブレストを行って、身近な出来事、疑問、問題・課題などを出しました。

最終的なまとめにおける「そもそもの要因・背景」が、オリジナルのKJ法における大分類のラベル、そして文化人類学的な知見にあたります。

当初は「専門家ではない我々には無理」と言っていたコミュニケーションとネット依存についても、ブレストとして制限することをしなかったので、関連する付箋が多数出ました。これをまとめたことで、当初は無理と言っていたカテゴリについても、最終的な成果物に知見を示すことができました。

デジタルなツールの利用

最終的なまとめの形はPowerPointにて、オリジナルのKJ法よりも構造的に整理しています。これは次のドキュメンテーションのしかたを意識してのものです。

前回、ブレストのありがちな失敗として「やって満足しがち」ということを書きました。このように構造的に再整理すると後工程への入力になります。付箋もテキストになっていますので、また改めてKJ法をする場合に印刷して小さい付箋にすることができます。

とはいえ、ワイガヤ・ブレスト・対話法を行うには、現状は模造紙や付箋のアナログ・ツールのほうが優れている、ということを改めて強調しておきます。

モチベーション

最初の付箋出しの段階ではメンバーもどうなるのか不安だったようですが、ドキュメントの形にまとまると「あの付箋が、こうまとまるとは…。」という感想も漏れていました。

このように長い間ブレストを行っていると、形になるのか不安になります。過去に「やって満足しがち」なブレストの経験がある人は「こんなことやっても」と発言しさらにデモチベートするかもしれません。

今回は特にモチベーションを維持することは行いませんでしたが、最初に成功例など示すとよいのかもしれません。(これが成功例になればよいのですが。もちろん後工程での失敗はありえます。)

最後に

「こどもとスマホ」プロジェクトでの、ブレスト&KJ法の様子を紹介しました。

現状、ワイガヤにはアナログが一番ですが、面倒でもデジタルに直しておくと、再利用やさらなる整理が可能になります。

将来は、机型のタッチパネル付き4K8Kディスプレイが登場して、デジタルでブレスト&KJ法ができるようになるかもしれません。ブレイン・ライティングのアプリも考えられますね。

次回は、こどもとスマホ記の3回目として、コンテンツ作成の際にアプリで試行錯誤した経験を書きたいと思います。。

ブレスト&KJ法については、まだまだ商品企画や、企業のCI(コーポレート・アイデンティティ)への応用を考えてみたいと思っています。

今しばらくお待ちください。

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