AR入り名刺作成の最終回として、名刺の将来について考えてみます。
まず実際にAR入り名刺を渡した経験をレポートします。さらに、企業におけるAR入り名刺の利用について考察します。最後に、電子名刺についての現状と今後の課題について考えます。
はじめに
4回に渡り、AR入り名刺の作り方をレポートしてきました。(この項はカテゴリが「技術と経営」ですが、前回までは「仕事術」です。m(_ _)m)
今回はその最終回として、名刺の意味を考えてみたいと思います。
余談ですが、本稿を書くにあたって、Googleではじめて「名刺 AR」と検索してみました。
すると、AR入り名刺をサービスとして提供している企業が上位に多数ヒットします。それもかなりいい値段で。
予算がある場合はそういったサービスを利用してもよいかもしれませんが、個人名刺、セカンド名刺の場合は、このシリーズのレポートで示しましたように、(印刷代を除いては)無料で作ってしまうのが良いと思います。
私の場合
まずは私がAR入り名刺を作ろうと思った理由と、その効果から書きたいと思います。
私の作ったセカンド名刺は、裏面にARマーカーと、junaio用のAR及び名刺情報のページへのリンクであるQRコードが印刷されています。
ARとQRコードの理由
ARを入れようと思ったわけは、単にインパクトです。面白い人と思われればいいや、と。
名刺情報へのQRコードに関しては、名刺の裏面に主張をこまごま書くよりも、Webページに飛ばしてしまったほうがシンプルになるからです。
もちろんスマートフォンでQRスキャンをするのは手間です。興味のある方だけアクセスして頂ければかまいません。
ARの結果
ARはまず自分のスマートフォンでデモするのですが、やはりお相手の興味を引く様子です。
名刺を交換させて頂いた方の中では、その場で自分のスマートフォンにjunaioをインストールし、試してみる方もいらっしゃいます。
ガラケーの方、スマホでも「デジタルは苦手なので」という方もいらっしゃいます。その場合は「お子さんに聞いて、一緒に遊んでみて下さい」といってまとめます。(スマホ持ちの子供がいる方限定ですが。)
ARの内容についても聞かれます。
「なぜスズメから花が生えているのですか?」「コスモスが好きなのですか?」
これらに対しては、以下のように答えています。
「3Dのデータは後から変えられるので、マーカーはテキトーです。」「今が季節ですので。12月にはクリスマスバージョンにします。」
とりあえず、「変な人」と思われる点では成功でしょうか。
今後
ARモデルは季節やイベント毎に変えようと思っています。
久しぶり名刺を取り出して見たときに、ARが変わっていたら、また新鮮かもしれません。
名刺情報のページも、変更があったら随時修正して最新情報を記載します。名刺情報のQRコードも、ARのついでにjunaioでスキャンして頂けるかもしれません。
また名刺だけでなく、何かしらのキャンペーンの際にAR入のカードを作ることも可能です。
企業でのAR名刺
次に、AR入り名刺を企業で利用することを考えてみます。
名刺以外のAR活用事例
プロモーションにARを活用した事例としては、以下の3点が思いつきます。
セブンイレブン×AKB48 クリスマスキャンペーン
2012年のセブン-イレブンのクリスマスキャンペーンです。
店内にARマーカーが設置されており、それを専用アプリで見ると、等身大のAKBメンバーが表示され、一緒に写真がとれる、というものです。
参考:promotion_laboさん【セブンイレブン×AKB48 AR企画「2ショットを撮ろう!」】
ファンの方にとっては素晴らしい企画かもしれません。それ以外の方は、どのくらい来店して、ARを撮影したでしょうか。一人では恥ずかしいように思うのですが。
購買にどのくらい繋がったかも分かりません。
Domino’s App feat. 初音ミク
2013年のドミノ・ピザのキャンペーンです。
宅配ピザのパッケージがマーカーになっており、専用アプリで見るとパッケージがステージに変わり初音ミクのライブが見られる、というものです。
参考:Gigazineさん:【初音ミクのソーシャルカメラ・AR機能・ミク割・スペシャルボックスなど気合が入りまくったドミノ・ピザのアプリ「Domino’s App feat. 初音ミク」】
Gigazineさんの記事を読むと、単にARだけでなく、メンバー登録から注文、クーポン、あと壁紙のインセンティブまで、かなり作りこまれたアプリ及びキャンペーンであったことが分かります。
このキャンペーン第一弾は「第12回モバイル広告大賞」を受賞とのこと。売上も、普段の数倍になった、どこか(CEATEC 2013だったかしらん)のセミナーで聞きました。
IKEAのカタログ
IKEAのカタログは表示自体がマーカーになっています。カタログを部屋においてアプリを介してみると、その家具を部屋においた時の様子がシミュレーションできます。
これらの他にも、新聞や雑誌等、紙媒体にARを埋め込み、動画等のコンテンツと連動させる事例はご存知だと思います。
AR入り名刺の可能性
では名刺の場合はどうでしょう。
カードやビラであれば広告やマーケットプレイスへの動線を貼ることができますが、名刺だと露骨な商売は躊躇われます。
企業ホームページとは違った、もう一つの情報ポータルとしての利用が考えられます。私の名刺のARには、ブログとtwitterへのリンクを配置していますが、企業の場合には以下へのリンクが考えられます。
- 新製品、サービスの情報
- 企業概要
- CSRの情報
製品がモノであれば、その3Dモデルを見せても良いと思います。また動画も提示することができます。
このような名刺のAR、あるいはARからのポータルは、企業で一つに絞る必要はありません。個人の属する部門や、担当している事業によって異なるものになるでしょう。
例えばこのような切り分けはどうでしょう。
担当マーケットごとのAR情報
「マーケット」というと商品市場が連想されますが、それ以外にも資本市場、材料市場、人材市場があります。
企業は、商品市場は「売る」側ですが、それ以外の市場では「買う」側です。(資本はどっちともとれますが。)
名刺のARコンテンツの話に戻しますと、個人が担当する市場と、ARからの情報の関係は以下のようになるでしょうか。
担当市場 | AR情報 |
---|---|
商品市場 | 新商品情報、キャンペーン |
資本市場 | 新商品情報、IR情報 |
材料市場 | 必要としている材料のドメインや情報 |
人材市場 | 企業情報、採用情報 |
市場が「B to B」であれば、名刺にこれらの情報を入れるメリットはあるかと思います。B to Cの場合は名刺でなく、カードやパンフレットのほうが適切でしょうね。
AR企業名刺のまとめ
以上、企業でのAR名刺の利用について考察してきました。
そのメリットをまとめると以下のようになります。
- 常に最新の情報にリンクできる。
- 渡す相手別に、リンク先の情報、ポータルを切り分けることができる。
以下の様な反論もあるでしょう。
-「QRコードでもよいのでは?」
インパクトが違います。見て頂ける確率も違うでしょう。(調査していないので推測。)
-「裏面は英語に決まっている。」
(「決まっている」のであれば、それでかまいませんが、)
名刺交換する全ての人が英語の面を必要としていますか?
外国の方向けに別に名刺を用意することはできませんか?(片面英語、もう片面その方の現地語とかでは?)
電子名刺の可能性
最後に、「そもそも名刺って何?」ということで電子名刺について考えてみたいと思います。
昔Palmユーザーが赤外線通信でやっていたやつです。
大企業の名刺の扱い
最初に、社内ITが整備されている大企業の名刺の扱い方のイメージです。
- 顔合わせで机の隅に置いて名前を覚えるのに使う程度。
- スキャンして整理。(社内システム、または自称「デキる」人。)
- 裏面は英語。
スキャン後は資源のムダですね。電子情報で十分です。
現状の電子名刺サービス
スマートフォンを用いた電子名刺サービスをGoogle先生にお聞きした所、2つのサービスが見つかりました。
- Eight : (紙の)名刺管理サービスに、電子名刺交換機能があります。2014年6月時点では、iPhoneとAndroid間の電子名刺交換はできないようです。
- Cofame : 名刺交換と、その後のミーティングの管理サービスです。2014年10月現在iPhoneアプリのみが提供されています。
電子名刺のメリットと障壁
以上のようなサービスのメリットとしては、以下が考えられます。
- 名刺記載の情報が変わった場合でも、最新の情報が参照できる。
- 電子データとして管理が容易。
- 多言語化も可能
現状の障壁としては以下があります。
- 違うサービスを導入した企業同士は、名刺交換できない。
- iPhoneとAndroid間の近距離通信ができない。
2点目に関しては、私が知らないだけで、もしかしたら方法があるかもしれません。
QRコードの読み取りも考えられます。しかし名刺交換という慣習を守りつつ、またスマートに行うためには、NFCのようにお互いかざすだけの通信が理想です。現状の赤外線は受信側、送信側を手動で設定しなければならないので面倒です。Airdropはどうでしょう?(iPhoneユーザーでないので不明です。)
現状では、異なるサービス間で互換であり、尚且つスマートな電子名刺交換はできそうにありません。
vCardの現状
名刺情報(電話、アドレス情報)を格納できるフォーマットの規格としてvCardがあります。テキストのシンプルなフォーマットですので実装も容易です。
名刺情報やアドレス情報を扱う各アプリ、サービスはvCardでやりとりすれば良いのに、と思いました。
しかし・・・。
昨年(2013年)、vCardについてトライアルした所、以下の様な問題がありました。
- 文字コードの問題。iOSはUTF-8。MSのOutLookはShift_JIS。
- よみがなが非互換。「X-PHONETIC-FIRST-NAME」や「SOUND;X-IRMC-N」や「X-MS-N-YOMI」など。
- iPhoneではWebからダウンロードしたvCardがインポートできない。vCalendarでラップするという裏技があった。
しかも当時のiPhoneのvCard実装は、パースできない行があるとアプリが落ちたり、「X-MS-N-YOMI」のような知らないフィールドがあるととんでもないバグが発生したりと、散々でした。(テキストのシンプルなフォーマットなのに・・・orz。)
恐らくガラケーの赤外線通信でvCardを扱っていた日本のメーカーと異なり、アップルさんは要件、実装、検証がテキトーだったのでしょう。(ならばなぜ半端なvCardを実装することにしたのか?)
今でもWeb上にはiPhoneへの機種変の際、アドレス帳のコンバートに苦労した方の記事があります。
今は改善したのでしょうか?
電子名刺のまとめ
「名刺」のそもそもが、名前、肩書、連絡先等の「名刺情報」なのであれば、電子名刺で十分です。
電子名刺のメリットとしては以下が考えられます。
- 貰った後の管理や(メーラー等への)展開が容易。
- 省資源(紙、場所)。
- 最新情報に更新できる。
3点目に関しては、例えばvCardに情報更新のURLを書いておいて、そこにアクセスすれば最新情報が参照できるようにすればよいと思います。また消去や次の担当へのリダイレクトも可能かもしれません。
また普及に対する課題としては以下が考えられます。
- 異なる端末間の通信方法(iPhoneとAndroid)。
- vCardなどの共通フォーマットや、交換規約の整備と普及。
- 個人情報および企業情報のセキュリティ。
3点目が課題ですね。紙の名刺のコピーはあまりしませんが(スキャンはしますね)、電子情報の場合は意図せずコピーされます。先に「URLで最新情報を参照」と書きましたが、そこにもセキュリティが必要です。
電子名刺の場合は交換の際に、名刺情報へのアクセスキーも交換するようなイメージなのですが、結局のところ「紙」がアクセストークンになるのでしょうかね。
「いずれ朽ちる」のが紙の良さ。
まとめ
AR入り名刺を実際に交換した結果、「インパクト」という初期の目的はほぼ達成されました。今後は折々にデータを変え、SNSで告知しようかと思っています。
AR名刺は、企業でもいろいろとアピールに使えそうです。すでにAR名刺の企業もあることでしょう。(「裏面は必ず英語」のようなお固い頭の企業には無理でしょうけど。)
電子名刺に関しては、まだまだ課題があり、普及には時間がかかるように思います。
最後に、そもそも名刺ってなんでしょう?
名刺情報で十分(今もスキャンして終わり)と思っている人は、後々電子名刺をメインに切り替えてください。紙の場合も、相手がスキャンしやすいようなフォント、テキスト配列、色は黒一色にしてください。
個人、企業のアピール、と思っている人は、ARだけでなく、いろいろな工夫をし、ぜひともご紹介下さい。