健康サービスを考える(その7):ライフレコーダーまとめ

今まで6回に渡り「健康サービスを考える」として、生活者向けのライフレコーダーを考えてきました。今回はその最終回として、今までの提案をまとめたスライドを提示します。そしてこのような商品企画に対して「技術経営(MOT)的考察」を加えます。

ライフレコーダーの提案

今まで考えてきました、ライフレコーダーの提案をスライドにまとめました。

スライド

ファイルを利用したい方はこちらからダウンロードできます。コピーライト表記はしていますが、まるごとでも、図表のコピペでも、ご自由にご利用ください。

PowerPoint2010で作成したpptxファイルです。フォントはメイリオですので、Windows7,8以外では代替フォントにされてしまうでしょう。

尚、クリップアートは全てマイクロソフトさんの著作物です。

スライド内の新しい情報

変更点、追記点は以下のとおりです。

  • 血圧の推計値を、心電を計測しての脈波遅延時間から、脈波のみからの推計に変更。
  • 検討項目(フィージビリティ・スタディが必要な項目)をリストアップ
  • 課題として、生活記録(食生活と嗜好品)、子供のライフレコーダー、健診記録のインポート)をリストアップ

特に1点目の血圧の推計値の出し方を変えた理由は、以下のとおりです。

  • 夜間高血圧、早朝高血圧にも警告を出したい。そのためには腕時計に反対の手で触って回路を作る方式は不適当。
  • 加速度脈波の解析は血管の固さを推計できるようだが、血管の固さがそう変わらないと仮定すると、日内変動する血圧が推定できるのでは?という思いつき。
  • いらないセンサ(心電)はなくして、シンプルにしたい。

技術経営(MOT)的考察

これまでのシリーズで行ってきたライフレコーダーの提案と、上記のまとめのスライドに関して、技術経営的な考察をしてみます。「技術経営とは?MOTとは?」と疑問に思っている方(技術者を想定)に、何となく感覚が掴めていただけたら、と思います。

商品企画の観点

商品企画の観点としては、以下の3点があります。

  • 技術者としての観点 : 「新しい技術がある。これを利用したら新しいことが出来そうだ。」
  • ユーザーの観点 : 「ターゲットユーザーはこんな機能が欲しいのでは?こんな使い方をするのでは?」
  • 会社の観点 : 「会社としてはこんな社会を目指す。そのためにこんな商品を提供したい。」

(3点目では主語を「会社」と書きましたが、企業でない組織でも、個人でも、ミッションを持っている主体であればそれが主語になります。)

3つの観点のうち、企画それぞれによってどれかの比重が大きかったりします。このシリーズのきっかけであるCEATEC2013の展示で見た製品は、「技術者としての観点」の比重が大きく、「ユーザーの観点」が小さいように思いました。「センサで色々測れるのはいいけど、普通の人は数値とグラフで分かるの?」

本シリーズのライフレコーダーは、机上の推論ですが「ユーザーの観点」の比重を高めています。また「会社の観点」はほぼありません。企画するのが、サービスが商材であるIT系企業か、センサを生産するメーカーかによって、特徴が異なるサービス・製品になるでしょう。

プロダクトアウトとマーケットイン、という言葉がよく言われます。曰く、「プロダクトアウトではなく、顧客の視点をいれたマーケットインに転換しよう」というように。

「技術者としての観点」がプロダクトアウトにあたり、「ユーザーの観点」がマーケットインにあたります。

しかし「プロダクトアウトからマーケットインに転換」が正解とは限りません。3つの視点ともよく考え、結果として3つのうちのどれかに重心が寄ってしまうのが正解だと思います。

まあ、それ以前に「技術者としての視点」しか持っていないとしたら、それが問題なのだと思いますが。

半歩先

「半歩先」は本田宗一郎さんの言葉です。

一歩先でなく半歩先が、競合に勝ちつつ、お客さんが価値を気づいてくれる調度良い進歩の度合いのようです。

本シリーズのライフレコーダーも、現在の技術で実現可能で尚且つ先進的な「半歩先」を考えました。しかしアルゴリズム等の開発は案外時間が掛かるかもしれません。また「深部体温の推計」に関しては、ほとんど思いつきです。「半歩先」を考えるとオミットになるかもしれませんが、コンセプトと「あったらいいな」を優先しました。

最近、過去に私が関わった製品の機能や、アイデア、特許出願を思い返す機会がありました。思い返してみると、それらのアイデアはちょうど十年後に市場性が出てくる傾向にあるようでした。とすると、このライフレコーダーも「半歩先」ではなく「だいぶ先」だったりして…。

アップルの場合

アップル社の製品のヒットの要因については、様々な人が様々な説をあげていますが、上記の「ユーザーの視点」と「半歩先」という点はアップルのヒット商品にも当てはまるかと思います。

アップルのヒット商品の、商品企画自体は新規性のある発明ではありませんでした。しかし他メーカーの前例商品にユーザー視点や半歩先のプラス・アルファをしています。

アップルの商品 前例商品 プラス・アルファ
Apple II Altair 8800など。 組み立て済み。オールインワン。
iPod Rioなど。 ポケットに1000曲。(端末に曲を入れなおす手間をなくす。)
iPhone PDA+通信モジュール 携帯電話とコンピュータの完全融合。iPodの資産。
iPad WINTELのタブレットPC、スレートPC

以下ちょっと余談です。

Apple IIに関しては、数年前のEnglish Journal(株アルク)付録CDにて、ジョブスが「Apple Iを買った多くの友達が組み立てを依頼してくるのでIIは組み立て済みにした」旨のことを言っています。クリステンセン先生は「イノベーションのDNA」のなかで、Apple IIは「ファンがなかった(のがヒット要因)」のようなことを書いていますが、当時の8ビットCPU機はファンレスだったのでは?

iPhoneに関しては、その発売の5年位前に私は、PDA(iPAQ)にPHSモジュール(P-in Compact)を接続してシステムのプロトタイピングをしていました。PHS網での通話はできませんでしたが、オープンソースのIP電話アプリで通話ができたので、私ごときでも、通話+アプリ+インターネット通信の端末は予見していました。

iPadのプラス・アルファはなんでしょうね?考えてみてください。

SWOTとか4Pとか

スライド中には、PEST分析とSTPを入れてみました。しかしPESTはもやもやしています。STPに関しても他に書き様はあると思います。

他にもフレームワークとしてはSWOT、4Pなどがあります。しかし今回の私の提案は企業の立ち位置がありませんので省きました。もし会社内で商品提案するような方がいらっしゃいましたら、入れても良いと思います。

(PEST分析、STP、SWOT分析、4Pなどの説明はしませんので、初耳の方は検索してみてください。書籍では、吉澤準特,「フレームワーク使いこなしブック」,日本能率協会マネジメントセンター,2010がわかりやすいです。)

これらのフレームワークはビジネス書籍でもよく出てきます。しかし分析から商品企画ができるでしょうか?

私が思うのは、これらのフレームワークは「アイデアを検証あるいはブラッシュアップするには有用であるが、アイデア自体を生むものではない」ということです。従ってフレームワークを使う順番は、アイデア発想の後になります。

本シリーズでも、フレームワークが登場したのはスライド作成の段階になって始めてです。

まとめ

ライフレコーダーの提案をスライドにしました。そして商品企画において、技術経営(MOT)的な考察を加えました。

商品企画については、最近バズワード化しつつある「デザイン思考」も絡めてまとめてみたいとは思っていますが、いつになるやら。

また提案のライフレコーダーについては、各企業でぜひパクってください。私一人が机上でアイディエーションしたものですので、多くの方がアイデアを追加し、ブラッシュアップすればより良い商品になりうると思っています。(その際はお声をお掛けいただき、酒でもおごってください。)

オープン・イノベーションとかオープン・デザインという言葉がありますが、オープン・アイディエーションというのもありえますね。

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