健康サービスを考える(その6):ライフレコーダーのアプリケーション

これまで提案してきた生活者向けの腕時計型ライフレコーダーと連動する、スマホなどのアプリケーションを考えます。現状提案されている、「数値・グラフを表示するだけのアプリ」に対するアンチテーゼからスタートし、前々回考えた測定項目のコンセプトに基づいてアプリケーションを考えていきます。

自分で自分の健康管理をするのは、案外むずかしいものです。そこで家族がお互いの健康状態を把握し、サポートし合えるような手段を提供する「家族SNS」を提案します。

はじめに

これまでのシリーズの中で、生活者向けの腕時計型ライフレコーダーを提案してきました。今回はライフレコーダーと連動するクラウドや個人端末(スマホ、タブレット、PC)に実装するアプリケーションについて考えます。

ヘルスケア・サービス(CEATEC JAPAN 2013レポート)」にも書きましたが、現状の生体センサと連動するアプリケーションはたいてい「計測値のディジタル表示とグラフ表示」です。

もちろん「数値やグラフを見たい」というユーザーニーズも考えられます。例えば以下の様な場合です。

  • ダイエット中の人が、目的(ゴール)の体重と、目標(メトリクス)の活動量や減量を設定して、それが達成できるようモニタする。
  • スポーツをする人が、心拍を管理して行うトレーニング方法を実践する。
  • 自分の健康管理にGeekな人、レコーディングマニア層。
  • 健康を害すると社会的影響が大きいエグゼクティブの健康を管理する人。

上のようにターゲットが特定されており、それに訴求しているのであれば良いと思います。

しかし一般の生活者をターゲットにしているのであれば、それらの人が数値やグラフを見て「これは良いサービスだ」と感じるのか?というのが私の疑問でした。

アプリケーションのコンセプト

健康サービスを考える(その4):生体センサ、測定項目、コンセプトについて考察」にて考えた、生活者向けライフレコーダーの測定項目に関するコンセプトは、そのままアプリのコンセプトになり得ます。

  • 馴染みの測定項目 : 普通の人が数値やグラフを見て健康状態が実感できる測定項目とその表示。
  • 健康状態のアドバイス : 測定項目の値によって、アプリケーションがアドバイスを提示する。
  • 実感 : ユーザーが健康状態を実感できたり、ライフレコーダーを装着するモチベーションになるようなしくみ。

上のコンセプトを実装するアプリは一つとは限りません。ライフレコーダーで収集したデータはクラウド上にあることを想定しており、様々なアプリがそのデータを利用できます。

馴染みの測定項目を見るアプリ

冒頭にて、単なる数値・グラフ表示のアプリをアンチテーゼの対象として挙げましたが、馴染みの測定項目に関しては、数値、グラフ表示はありだと思います。裏を返すと、冒頭に挙げた「特定されたターゲット」とは、それぞれの測定項目が既に馴染みになっているユーザー層のことです。

グラフ表示

グラフ表示にしても、単に一日ごとの測定値をそのままプロットして線で結んでもうまくいかないように思います。

測定毎に誤差がありますし、日内変動もあります。一日の中で決まった時刻の測定値をプロットするとか、測定誤差を均すために、補完や移動平均などで測定値のプロットとは別に線を引くことが必要になるのではないでしょうか。

このことは、各展示会で各メーカーの展示員さんに質問をしてみています。ほぼ「移動平均などは必要かもしれませんね。」というような回答でしたので、これから検討するかもしれません。

天気予報風表示

グラフ表示に代わる表示のメタファーとしては、天気予報が挙げられます。お天気も、降雨量、気温、雲の量等の測定値ですが、週間天気予報では、天気のイラスト、洗濯指数、最低・最高気温などのわかりやすい表で表されます。

ライフレコーダーの測定値も、お天気と同様に、イラストや日内変動の最低値・最高値で表せるのではないでしょうか。(測定誤差による異常値には注意が必要そうですが。)

表示の順番

数値とグラフ、あるいは週間天気予報風の表を、単にプリセットされた順番で表示するのはうまくありません。ダイエッターやメタボ予備軍の人は体重や活動量から見たいでしょうし、血圧を気にしている人は血圧から見たいでしょう。

表示をカスタマイズできるようにすることは言わずもがなですが、その人の目的と体調にあった表示をアプリが提案することもできます。また、例えば熱があるときに体温を最初に表示する、というように、健康状態から外れつつある測定項目を上に上げるというようなことも考えられます。

健康状態のアドバイスをするアプリ

ユーザーが全く健康なうちは、馴染みの測定項目がなく、表示アプリを見ないということが考えられます。常駐アプリが健康状態の変化を検知したら、メール、SMS、facebookメッセージなど、ユーザーがよく見るメディアにアドバイスのメッセージを投稿します。

前々回に書きましたように、アドバイスといっても、推計値によって「今朝は熱っぽいようです。体温を測ってみませんか?」とか、「最近血圧が高いような気がします。測ってみませんか?」というような、医療機器で正確に測ることをアナウンスするイメージです。(ライフレコーダーはあくまでも健康機器で、医療機器と一線を引く意図があります。)

正確に測ってみて注意したほうが良さそうであれば、「馴染みの測定項目」として注目していくよう、表示アプリにユーザーを誘導します。(もしかしたら検査や受診が必要なのかもしれません。)

血圧や体重など、計測にユーザーのアクションが必要である場合には、計測日や時刻に合わせてアナウンスするような機能も考えられます。

実感できるアプリ

ユーザーが全く健康で、長期間「健康状態のアドバイス」がなされず、「馴染みの測定項目」表示アプリを見なくなると、ライフレコーダー自体を着けなくなるかもしれません。そこでライフレコーダーをつけていることが実感できるアプリを考えます。

前々回は既存の「実感」機能として、SNSとゲーミフィケーションを挙げました。また前回、実感になりうる測定項目として心拍変動について考えました。まずは前回のアイデアの補足から始めます。

勝負師向け、本番前の状態表示アプリ

ターゲットの勝負師とはスポーツ、棋士・雀士、ステージパフォーマーなどを想定しています。プロ、アマは問いません。

勝負師は、本番の前に緊張します。緊張すると心拍数が上がり、交感神経が活性化するであろう、という仮説に基づいています。(ジャスト・アイデアで論文等は調べていません。)

緊張し過ぎるとガチガチになって失敗してしまうかもしれません。また全くの弛緩状態でもポカミスをしてしまうかもしれません。その人にとっての調度良い緊張状態があるのではないかと思います。

ちょっとした心理状態が勝負に影響をおよぼすような世界の人にとっては、本番前の自分の緊張状態を数値などで客観的に把握し、ベストの状態にコントロールできるようになると良いのではないでしょうか。

IMEとの連携

緊張、恐怖、ワクワク、ストレス、どれで心拍数が上がり、また交感神経の活動度が上がっているのかわかりませんが、何らかの心理状態を反映しているという仮説に基づいています。(ジャスト・アイデアで…以下略。)

だったらメールやSNSに書き込みをしているときに、サジェストに利用してみると面白いのではないでしょうか。交感神経が活動しているときは、より感情的な単語、定型文、顔文字、絵文字を提案するような。\(^o^)/

心拍変動だけでなく活動量計とも連動して、運動の後に疲れた感じや、いい汗かいた感じも出せそうです。

スケジューラーや日記アプリとの連携

スケジューラーに特定のフラグを付けて予定を書き込んでおくと、その予定の前後、最中に測定を頻繁にするようにセンサを制御します。前記勝負師向け状態表示アプリを支援します。測定結果はアイコンなどで予定と関連付けられ、後からどんな状態でスケジュールに望んでいたか確認できるようにします。

日記アプリもほぼ同様です。スケジューラーと連動するのであればスケジュールとその時の自律神経バランスの状態をみながら文を書きます。スケジューラーと連動しなくても、ある特定の時間に交感神経が活動していたり、活動量が上がっていたりしたなら、そのとき何が起きていたかを思い出して文を書きます。先のIME連携機能に、そのときの測定データを反映させることもできますね。

健康法や運動の効果の確認

運動は体重・体脂肪管理のみならず、高血圧の改善や睡眠の質の改善にもよいと言われています。また真偽のほどが不明な、様々な健康法(ダイエット法)があったりします。真偽とまでは言わなくても、効果の個人差はあるでしょう。

それらの健康法の実践を細かく記録し、測定した血圧、睡眠の質、体重などの目的変数と照らしあわせて効果を確認できるようにします。

家族SNS

自分自身の健康を管理するのは案外むずかしいものです。とくに健康なうちは、それが当たり前なので、健康管理自体に興味が湧きません。

しかし大事な人、家族であればその健康を願うものだと思います。お父さんはお母さんと子供、お母さんはお父さんと子供の健康を気にします。同居しているか離れているかは問いません。

そこで家族の間なら、ライフレコーダーの情報を、差し障りない限りオープンにするSNSのようなシステムを考えます。SNSといっても掲示板機能は必要ないでしょう。「馴染みの項目」を家族で並べて表示したり、アプリによってなされた「健康状態のアドバイス」が家族間で参照できるようにします。

これにより、家族全員でそれぞれの健康を気遣うようになります。

オープンな開発環境

上記のような「実感」アプリは、ライフレコーダーやデータをストアするクラウドのAPIをオープンにして、アイデア次第でだれでも開発できるようにするのが良いと思います。「開発のオープン化における一提言(CEATEC JAPAN 2013レポート)」にてODNAなるものを提案しましたが。ライフレコーダーのサービス開発にもODNAが適当です。

しかし扱うのは個人情報なので注意が必要です。「ライフレコーダーやクラウドからデータを得るアプリは、よそとの通信は許さない」などの、ガイドラインが必要ですね。

まとめ

ライフレコーダーによって取得したデータを利用する、クラウドおよび個人端末のアプリケーションを考えました。サービスやアプリケーションが生活者向けであるならば、単に計測値とグラフを表示すれば良い、というのではなく様々な工夫が必要です。「実感」のアプリについてはアイデア出しのレベルですが、その中でも「家族SNS」が最も実現可能で有意義そうです。

次回は今までの総まとめとして、スライドにまとめようかと思っています。そういえばフィージビリティ―についてあまり書いていませんでした。

またこれまで、健康についての重要項目である「食」については一切触れませんでした。これに関してもアイデアがありますので、またいずれ書きたいと思います。

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