足し算の順序問題って?:算数順序問題(その1)

togetterでまとめられていた「足し算の順序」問題に興味を持ちました。

本稿では、そのまとめを抜粋して足し算の順序問題を紹介します。さらにその問題で使われている、足し算の問題の分類用語、またと引き算の分類用語をまとめて紹介しています。

はじめに

togetterに”「かけ算の順序」なんてもう古い⁈ 今や時代は「足し算の順序」‼“というまとめがありました。

大変興味深く読ませて頂きました。

本シリーズは、教育問題はさておいて「足し算に交換法則が成り立たないことがある」世界を数学的?にイジって考察してみよう!という大人の遊びです。

まずはその第一回として、もとのtogetterのまとめをさらにまとめてご紹介します。さらに算数教育における足し算と引き算の分類をまとめます。

尚、以降の用語や対応する問題例は、新興出版社啓林館のサイトの「算数用語集」を参考にさせて頂き、作成しました。

用語を参照させて頂いていますが、「啓林館さんが足し算の順序を主張している」というわけではありませんので、ご注意ください。

足し算の問題の概要

まずは、togetterのまとめの概要を、ツイートを引用しながら記します。

まとめのまとめ

まとめの冒頭のツイートはこれです。

この続きには、算数教育の偉い人には、「足し算に順序が必要」という主張をする人がいる、また算数の教科書には、そのような指導を推奨する記述がある(あった)、旨のツイートが続いています。

その順序の考え方。

「合併」には順序は必要ありません。しかし増加のときには、「元からあった数を先に、増えた数を後ろに書くべし」としている教科書メーカー、教育界のエライ人がいるとのこと。

(現場の先生に、足し算の順番が違うとバツをつける人がどれくらいいるかはわかりません。)

さらには、偉い人のこのような主張。

そして引き算の分類を考えている人。

この先生の主張がどのようなものかは、わかりません。

しかし算数教育界には既に引き算の分類があるようです。この後の「引き算の分類」の節に示します。

足し算問題の分類

ここで、算数教育界の足し算問題の分類を確認しましょう。

  説明 問題例
合併 同時に存在する2つの数量を合わせた大きさを求めること ドーナツが 2こと、3こ あります(絵)。あわせて いくつですか。
増加 初めにある数量に、追加・増加があったときの大きさを求めること くるまが 5だい あります。2だい ふえると なんだいに なりますか。
求大 大小2つの数量があり、小さい数と差がわかっていて、それらから大きい数量を求めること Aくんは クッキーを 3こ もっています。Bさんは Aくんより クッキーを 2こ おおく もっています。Bさんは なんこ クッキーを もっていますか。

(参考:合併・増加求大・求小

ここでご注意ですが、私は「問題(文章題)の分類」のつもりです。「足し算の(MECEな)分類」ではありませんし、問題を分類したからといって、足し算の順序を主張しているわけでもありません。

さて順序問題では、前章に示しましたように合併と増加のみが扱われています。

増加には順序があるようですが、求大はどうでしょう?

恐らくあるのでしょうね。小さい数と差は別物ですから。

もし先生が順序にこだわっている場合、子供はまず「順序が必要か不要か」を分類し、必要であれば「どの数字が後か」を考えなければなりません。

たいへんですね。

引き算問題の分類

同様に引き算問題の分類をまとめると以下のようになります。

  説明 問題例
求残 初めにある数量から減少があったときに、残りの数量を求めること 7にんの こどもが あそんでいました。3にんが かえりました。のこりは なんにん ですか。
求部分 全体とその一部分の数量がわかっていて、他の部分を求めること こどもが 7にん います。おとこのこは 4にん です。おんなのこは なんにん ですか。
求差 2つの数量が存在し,その差を求めること おとこのこは 6にん、おんなのこは 4にん います。かずの ちがいは いくらですか。
求小 大小2つの数量があり、大きい数と差がわかっていて、それらから小さい数量を求めること Aくんは クッキーを 5こ もっています。Bさんの もっている クッキーは Aくんより 2こ すくないです。Bさんは なんこ クッキーを もっていますか。

(参考:求残・求差・求部分求大・求小

演算を生活上のどのような課題に対応させるべきかが、わかりやすく分類されています。

教科書では、この分類に従って章立てがなされているのでしょうかね。

国語的には、求残は増加と対応しそうです。

数学的には、求部分が合併の逆演算で、求差と求小が求大の逆演算になっていますね。

ここで一つ疑問です。

次の問題はどれにあたるでしょうか?求残でしょうか?

7にんの こどもが あそんでいました。ゆうがたには 4にんに なっていました。 かえったのは なんにん ですか。

引き算では交換法則が成り立ちませんから、議論にはなりません。

スッキリしない点

以上、問題の概要と、算数教育界の問題分類をみてきました。

ここで、プログラミング言語で交換法則の成り立たない「+」も書いたりする私にとって、スッキリしない点を挙げてみます。

視点で分類が変わること

このまとめを読んで、私が最初に発想した問題は以下です。

以下を立式してください。(足し算にも順序が重要という主義者になって。)
イギリス人がオーストラリア大陸に5人移住し、オーストラリア国を作りました。その後、大陸を探検してみると、大陸には「アボリジニ」という先住者が7人いることがわかりました。さて、オーストラリアの人は全部で何人ですか?

この問題、イギリス人の視点かアボリジニの視点か、或いは、最後の「オーストラリア」が大陸か国かで、どちらが増加したかが異なります。

しかも、イギリス人が移住した後の、ある時点にオーストラリア大陸を訪れた旅行者の視点であれば、そこに住んでいるイギリス人とアボリジニの合併になります。

冒頭の車の問題でも、移動してきた車の中の主観を指摘された方がいらっしゃいました。さらには、完了した時点での客観的視点で、「止まっていた」という属性の車と「来た」という属性の車の合併と考えることも可能です。

数学に視点を持ち込むこと

数式に時間や空間の観点はありません。有効範囲はあるかもしれませんが、全てが常に成り立ちます。物理学になって初めて時間や空間の変数が導入されます。

一方プログラムは時間の流れの産物ですから、i =1; i = ++i * i++; なんていう気持ち悪い計算を書くことも出来ます。

ですので「厳密に言うと交換法則は成り立たない」と言い切った先生の、「空間的」「時間的構造」という文章問題の性質が、それを数式にした後にも交換法則という数学界の法則に影響を与える、というのは私の感覚には合いません。

宮沢賢治「春と修羅」の「心象スケッチ」を思い出しました。最後の文を引用します。

心象や時間はそれ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます

文学であれば素敵。

算数の順序問題とは

以上を踏まえて、足し算、あるいは掛け算の順序問題というものを、私は以下のようにとらえています。

算数ワールド

順序問題は左側です。

「体」というのは、数学の世界です。足し算、掛け算に交換法則が成り立つので、順序はありません。

「算数問題分類」というのは私の造語ですが、本稿の「足し算問題の分類」「引き算問題の分類」と、掛け算、割り算の分類もあれば、それらをまとめたものです。

真ん中の「しき」が問題です。数学の世界の式とは異なるものらしいです。ですので、ここの領土を争っているイメージ。

まとめ

「足し算の順序問題」と、算数教育で使われている文章題の分類(算数問題分類)をご紹介しました。

次回は、先の図の右側、交換法則が成り立つ足し算と成り立たない足し算がある、新しい算数ワールドを考えてみたいと思います。

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