足し算に順序のある数学の世界:算数順序問題(その2)

算数の順序問題を考えるシリーズの第2回は、足し算に順序があったりなかったりする数学の世界を真面目に定義します。

そして、算数教科書にある足し算・引き算の文章題の分類に似ていて、その数学の世界と対応が取れる分類を定義します。

このようなことは、順序問題の解に役立つでしょうか?

はじめに

足し算の順序問題をイジる考えるシリーズ、前回は問題と算数問題の分類を紹介しました。

本稿はその第2回として、足し算に順序があったりなかったりする数学の世界を本気で考えてみます。

前回の最後で、下の図を書きました。順序問題は図の左側の建物です。

ここの2階「しき」の解釈が、順序ない派と順序ある派で異なり、所有権を争っている状況、と私はとらえています。

2つの解釈が可能な階層があるのはよろしくありませんので、図の右側のように建て替えを考えます。
用語も新しいものを定義して、言葉の定義で異論が挟めないようにします。

1階の「算数域分類」は算数問題の分類とほぼ同じものです。しかし上の階との繋がりの悪い項目は削除したり、また新たな分類を追加したりするつもりです。

2階の「算数群」は交換法則が成り立つ足し算と、成り立たない足し算がある数学の世界です。

足し算が2つある時点で、数学用語の「群」の定義とは異なるかもしれませんが、そこはそれ。「算数群」という独特なものと捉えてください。

用語の定義

初めに言葉を定義しておきます。

  • 式:等号=で連結される、数学的な式。(算数の「しき」ではありません。)
  • 演算:2つの数から、1つの数を得ること。演算に固有の演算子を定義し、その左右に数を書くことで表す。(左右の数は、それぞれ左項、右項と書くことにします。)
  • 可換:交換法則が成り立ち、尚且つ左右の項を入れ替えてもよいこと。
  • 非可換:交換法則が成り立とうがどうであろうが、左右の項の入れ替え禁止!

可換と非可換は、普通の数学の意味とは違いますのでご注意ください。本稿での「可換」「非可換」は上の定義で上書きされます。本来の意味を言いたい場合は「交換法則が成り立つ」「交換法則が成り立たない」と書くことにします。

ここに「足し算は順番が決まっている」というのは「足し算は非可換である」と言うのと同じ意味になります。

算数群の定義

さて本論です。

基本的な演算の定義

まず、算数群の基本的な2つの演算を定義しましょう。

  • 演算@:可換な基本演算。演算子は”@”。
  • 演算#:非可換な基本演算。演算子は”#”。

足し算にあたる演算は、可換と非可換がある、ということなのでそれを定義しました。

ここでの気持ちは、演算@が順序のない「合併」、演算#が順序のある「増加」に対応する、と言いたいところです。しかしまだ保留。

なお合併、増加などの算数問題分類(造語)については、前回をご参照ください。

逆演算の定義

次に逆演算を定義します。引き算にあたります。

  • 逆演算:ある演算の結果の数と、一つの項より、もう一つの項を得ること。逆演算の演算子は、もとの演算子の前に”!”をつけ、後ろには、左項を得る逆演算では”s”を、右項を得る演算では”o”をつけることとする。

つまり

S @ O = N が成り立つとき、 N !@s O = S, N !@o S = O が成り立つ。
S # O = N が成り立つとき、 N !#s O = S, N !#o S = O が成り立つ。

ここでは、SはSubject、OはObject の気持ちです。Nに意味はありません。

新しい演算子、!@s、!@o、!#s、!#oが定義されました。(「inverse @ to get subject」のような意味です。)

可換な演算の逆演算

可換な演算の逆演算を検討してみます。


S @ O = N     ...(1)
のとき、定義より
O @ S = N     ...(2)
(1)式を、右項を得る逆演算を使って書き換えると
N !@o S = O    ...(3)
(2)式を、左項を得る逆演算を使って書き換えると
N !@s S = O    ...(4)
(3)(4)が同時に成り立つということは、演算!@sと演算!@oはまったく同じ。

ですので今後、可換な演算@の逆演算は一つ、その演算子は”!@”で表すことにします。

実際の算数においては、足し算で交換法則が成り立つ故に、その答えからどちらかの項を求めたい場合に、どちらも引き算で求められることに対応します。

非可換な演算の逆演算

非可換演算の逆演算では、可換演算のような証明はできませんので、!#sと!#oは使い分ける必要があります。

実際の算数においては、交換法則が成り立たない引き算では、答えからどちらかの項を求めたいときに、足し算を使うか引き算を使うか区別しなければならないことに対応します。

逆演算の名前付け

逆演算が3つ出来ましたので、これらに名前をあげます。

  • 演算!@:可換な演算@の逆演算
  • 演算!#s:非可換な演算#の、元の演算の左項を得る逆演算
  • 演算!#o:非可換な演算#の、元の演算の右項を得る逆演算

以上より、算数群には、足し算にあたる演算が2種類、引き算にあたる演算が3種類あることが分かりました。

算数域分類の定義

次に、現実世界の問題を算数群に対応できるよう、問いを分類する「算数域分類」を考えます。(テキトーな造語です。群・環・体はつかえないよねーということで「域」)

完全に新しく作るのではなく、算数問題分類(こちらも造語)のバージョンアップを考えます。

(算数問題分類については、前回の「足し算問題の分類」「引き算問題の分類」の節をご参照ください。)

算数問題分類では、足し算には、合併、増加、求大の3つが有りました。

引き算には、求残、求部分、求差、求小の4つが有りました。

これらは、算数群の5つの演算と対応するでしょうか。

足し算の分類と算数群の対応

算数問題分類中の足し算の分類と、算数群の基本演算の対応は以下の表のようになりました。

説明の下のアルファベットは、算数群での式における各項の「気持ち」です。

算数問題分類 算数群での式 説明
合併 P @ A = S 同時に存在する2つの数量を合わせた大きさを求めること
P:Part、A:Another part、S:Set
増加 初めにある数量に、追加・増加があったときの大きさを求めること
求大 F # D = M 小さい数と差がわかっていて、それらから大きい数量を求めること
F:Few group、D:Difference、M:Many group

合併が演算@に、求大が#になりそうなことは予想がつきます。

もともと「増加には順序が必要」という問題から始まったのですが、増加を単に演算#として良いでしょうか?

引き算の分類と算数群の対応

算数問題分類中の引き算の分類と、算数群の逆演算の対応は以下の様になりました。

算数問題分類 算数群での式 説明
求残 初めにある数量から減少があったときに、残りの数量を求めること
求部分 S !@ P = A
S !@ A = P
全体とその一部分の数量がわかっていて、他の部分を求めること
合併の逆関数。
P:Part、A:Another part、S:Set
求差 M !#o F = D  2つの数量が存在し,その差を求めること
求大の右項を得る逆演算。
F:Few group、D:Difference、M:Many group
求小 M !#s D = F 大きい数と差がわかっていて、それらから小さい数量を求めること
求大の左項を得る逆演算。
F:Few group、D:Difference、M:Many group

求部分、求差、求小の対応は問題ありません。

しかし求残に対応する逆演算は、演算!#sでよいでしょうか?

算数問題分類の無理

増加の逆演算に対応する問いは、増加の結果の集団から、動作以前に既存であった部分、または増加分を得る問いになるでしょう。増加には時間に意味がありそうですので、その逆演算は時間を遡って項を類推する問題になります。

自動車が7台になりました。もともとあったのは5台です。何台ふえたでしょうか。

仮にこれを「求増加」としましょうか。もう一つの増加の逆演算を仮に「求既存」としましょう。

求残にも時間があります。もとの基本演算に対応する問題は、時間を遡って元の集団を類推する問題になります。

子供が遊んでしました。帰った子供は3人です。まだ遊んでいる子供は4人です。もともとは何人だったでしょう?

仮にこれを「遡及集合」としましょうか。さらにこの遡及集合の、もう一方の逆演算に対応する問題もあります。

子供が遊んでしました。何人か帰り、まだ遊んでいる子供は4人です。帰った子は何人でしょう?

「求帰宅」とでもしましょうか。(もうテキトー。)

もう分類多すぎ。

算数域分類の定義

ここで、前回の「スッキリしない点」の章で上げたポイントを思い出します。

増加でも、動作が終了した時間で止めて、元からあったという属性のグループと、増加したという属性のグループがある、という視点に立てば合併です。

求残も、もう一つの「帰った子供」を求める引き算も、一つの集合と、その中のある属性のグループから、その他のグループの数を求める、という視点にたてば、求部分になります。

もう一つのスッキリしない点、「時間の観点」もなくなります。

しかし「合併」「求部分」という言葉をそのまま使うのは混乱のもとなので、算数域分類では、それぞれを新しい言葉で「集合」「分離」と名付けます。

以上より、算数域分類は以下のように定義できます。

算数域分類 算数群の式 説明
集合 P @ A = S 一部の数と、もう一部の数を合わせて、全体の数を求めること。
P:Part、A:Another part、S:Set
求大 F # D = M 大小2つの数量があり、小さい数と差がわかっていて、それらから大きい数量を求めること
F:Few group、D:Difference、M:Many group
分離 S !@ P = A
S !@ A = P
全体とその一部分の数量がわかっていて、他の部分を求めること
集合の逆演算。
P:Part、A:Another part、S:Set
求差 M !#o F = D  2つの数量が存在し,その差を求めること
求大の右項を得る逆演算。
F:Few group、D:Difference、M:Many group
求小 M !#s D = F 大きい数と差がわかっていて、それらから小さい数量を求めること
求大の左項を得る逆演算。
F:Few group、D:Difference、M:Many group

「帰った子」を求める引き算も分離に入っていますし、時間の概念も不要です。

算数問題分類より分類数が少ないですし、算数群との対応を見るとMECEになっています。

いやー、私的にはスッキリ。

既存の世界との対応

さて独自の世界、算数群と算数域分類が定義できました。

独自の世界のままでは有用性がゼロですので、算数問題分類と言っていた算数界の分類と、「体」と言っていた数学の世界との対応をとってみましょう。

算数問題分類 算数域分類 算数群 体(数学の世界)
合併 集合
(時間なし)
P @ A = S
(可換)
P + A = S
(可換)
増加(時間あり)
求大 求大 F # D = M
(非可換)
F + D = M
(可換)
求残(時間あり) 分離
(時間なし)
S !@ P = A
S !@ A = P
S – P = A
S – A = P
求部分
求差 求差 M !#o F = D  M – F = D
求小 求小 M !#s D = F M – D = F

一見、算数群の式が、算数の「しき」に対応しそうですが、増加が可換なことが異なります。

また算数域分類では、算数問題分類では分類できない問題(「算数問題分類の無理」の節で仮に名付けた求増加、求既存、遡及集合、求帰宅)も分類可能です。

ともあれ、算数群と体の対応がとれましたので、冒頭の図を書き直します。

真ん中の「大人用」が本稿の考察で出来上がった枠組みです。一番右の「子供用」は、次回のテーマです。

まとめ

厳密に演算を定義した算数群と、MECEな算数域分類を定義しました。

算数域分類と既存の算数問題分類との対応をとると、合併と増加は一つの「集合」に、求残と求部分は一つの「分離」になりました。

その結果、増加では順序を気にする必要はない、という結論になりました。

もちろん「現実のこのタイプの問題は、この演算で解けるよ」という、算数の教授法は尊重しています。

また、算数群と体(数学の世界)との対応も取れていますので、数式に変換可能です。

次回は、本稿での考え方を元に、算数群と算数域分類を掛け算・割り算に拡張します。さらに次々回、算数群を小学生でもわかる概念に置き換えて、わかりやすくしたいと思います。

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