私の購入したLenovoの「IdeaPad Yoga 11S」を事例として、狩野モデルの魅力品質とあたりまえ品質を考えます。さらに企業(開発者)が陥りがちな誤謬を示し、簡単な対策を示します。
「『ウリ』って、本当にユーザーの『買い』ですか?」
はじめに
前回はLenovoのノートPC「IdeaPad Yoga 11S」(以下、IdeaPad)のレビューをしました。
そこでは、私の不満点とその対策として以下をあげました。
- 太い3P電源ケーブルが付属 →別途コネクタ購入。
- ファンクションキーの入力が、デフォルトではfnキーを押しながら、になっている。(普通と逆) →BIOS設定。
- 液晶の焼け付き →対策なし。
またLenovoのYogaシリーズの「ウリ」として、「2in1」以上の変形を挙げました。
※「2in1」とは、「タブレットとしてもノートPCとしても使えますよ」というインテルが提唱したノートPCのカタチ。
変形についてはLenovoのサイトをご参照下さい。通常のノートPCの形、ヒンジを360度折り返してタブレット、途中で止めることでさらに2つの形になる変形を「4つのモード」といっています。
狩野モデル
これらを「狩野モデル」で考えてみます。狩野モデルとは、狩野紀昭先生が提唱した品質モデルです。
狩野モデルの概要
「品質」と日本語でいうと「欠陥がない」の意味に思われるかもしれません。しかし「魅力的」という特性も含めた、広い意味になります。(「クオリティ」の語感のほうが、より適当です。)
狩野モデルでは、以下の品質要素を考えます。
- 魅力的品質 : なくてもユーザーは不満に思わないが、あると「素晴らしい」「魅力的」と感じる要素。
- 一元的品質 : ある、なしがそこはかとなく線形に満足度になる要素。
- あたりまえ品質 : あっても「素晴らしい」「魅力的」とまでは感じないが、ないと「不満」に感じる要素
参考:Life Long learning – MOT≪狩野モデル-品質とは≫
例えば、ソフトウェアの「欠陥がないこと」は、「あたりまえ品質」と言えます。
(最近のiOSとかそうでもないのかもしれませんね。苦笑。)
ハーズバーグのモチベーション理論
狩野モデルは、ハーズバーグのモチベーション理論に似ています。
ハーズバーグのモチベーション理論では、会社などで仕事のするときのモチベーションに関して、以下の要因を定義しています。
- 動機づけ要因 : なくても「不満足」にならないが、あったときに「満足」をもたらす要因。
- 衛生要因 : あっても「満足」にはならないが、ないと「不満足」になってしまう要因。
参考:モチベーションUPの法則≪ハーズバーグの動機づけ・衛生理論≫
魅力的品質が動機づけ要因に、あたりまえ品質が衛生要因に対応します。人間の心理にはこのような非線形の尺度があるのかもしれません。
IdeaPadの不満点とあたりまえ品質
前回あるいは冒頭で挙げた私の不満点は「あたりまえ品質」ではないかと思いました。
もちろん国やユーザー層によって異なります。しかし日本において、PCに慣れている層にとっては、以下はもう当たり前です。
- ACアダプタが小さく、ブレードが折りたためること
- PCに慣れている人がすぐにファンクションキーをつかえること
- 液晶に焼け付きがなく、セキュリティリスクにならないこと
ASUSから乗り換えた私が不満に思うくらいですから、日本メーカーから乗り換えた人にとって、あるいはMacBookユーザーがセカンドマシンとして使用するとしたら、もっと不満に思うのではないでしょうか。
IdeaPadの「魅力的品質」は?
ではIdeaPadの魅力的品質は何でしょうか?
「ウリ」としては、冒頭に示した変形でした。
前回も示しました、好意的なレビュー(ASCII.jp≪「IdeaPad Yoga 11S」は俺的に変形Ultrabook最高峰!≫)をされたライターさんにとっては、「魅力的品質」なのでしょう。「最高峰!」と表現していますので。
しかし私にとっては、前回書きましたように「4つのモード」以前に、「タブレット」として今一つでした。
再掲しますと以下です。
- 約1.4Kgはタブレットとしては重い。
- Windows8が「2in1」のOSとしては今ひとつ
結局のところ、Lenovoの思惑とは異なり、「2in1」や「変形」は、日本の、おおよそのユーザーにとって十分な魅力的品質にはなっていないように思います。
(残り2つのモードの使い方が今ひとつわからない。)
ターゲットユーザーは誰?
IdeaPadの変形やスペック、および価格設定より、ターゲットは「先進国のビビッド?なユーザー層」に思えます。
また私の不満点は、全世界で販売するための仕様のように思えます。
- 太い3P電源ケーブル → 全世界の安全規格を満足するため
- 液晶の焼き付け → 焼き付けがあっても、経済的な液晶パネルの調達
以上は日本のユーザーでなければ「あたりまえ品質」ではないのでしょう。
つまりターゲットユーザーに向けて真に仕様を落とし込めなかった。あるいは細かい点で「ローコストモデル」と同じプラットフォームを再利用していた。のように思われます。
(日本で売るならACアダプタだけでもどうにかして欲しかった。。。)
企業の思惑と市場
IdeaPadの変形の事例から、企業(開発者)の「ウリ」が必ずしもユーザーの「買い」つまり魅力的品質ではない場合があることが伺えます。
このような、ユーザーの「買い」でない「ウリ」を推す誤謬は、製品開発企業にありがちです。
この誤謬に陥らないためには、ユーザーの行動観察やプロトタイピング、ひいては今流行?のデザイン思考などが考えられます。
これらはまた機会があったら書くとして、ここでは以下を常に問うことのみを記しておきます。
- その「ウリ」は、ユーザーにとって「買い」なのか。ターゲットユーザーは誰か。
うーん、書いていて「ドラッカーが言っていたなあ」と思いました。Google先生に聞いてみると「ドラッカーの5つの質問」でした。
- 我々のミッションは何か
- 我々の顧客は誰か
- 顧客にとっての価値は何か
- 我々にとっての成果は何か
- 我々の計画は何か
参考:DIAMOND ONLINE 《ドラッカーが問いかけたいかなる組織にもかかわる「最も重要な5つの質問」》(「われわれ」→「我々」に変更。)
これの2点目と3点目ですね。
同じことを経営者層だけでなく、企画者・開発者も考えなくてはなりません。
まとめ
IdeaPadの「ウリ」と、私の不満点を「狩野モデル」にもとづいて考えました。
まずターゲットユーザーを明確にし、そのユーザーにとっての魅力的品質、あたりまえ品質を定義し、それらに整合がとれているか考えます。
時に企業や開発者は「ウリ」といって、ターゲットユーザーの「買い」でない特徴を推す誤謬を犯します。
次回はWindows8と8.1の違いと、8.1の小技を書きたいと思います。