開発のオープン化における一提言(CEATEC JAPAN 2013レポート)

CEATEC JAPAN 2013のセミナーで坂村先生の「オープン家電」のコンセプトを拝聴し、派生的にアーキテクチャ?を発想しました。センサ、アクチュエータのAPIがオープン化されれば、それらを利用した様々なサービスが多元的に開発されるようになると思います。メーカーが対応できないニッチなニーズにも対応できますし、B2BビジネスがB2Cビジネスに変わります。

はじめに

2013年10月1日から5日まで幕張メッセで行われたCEATEC JAPAN 2013(アジア最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展)を見たり、セミナーを聴講したりしてきました。

展示では、パナソニックの4K有機ELディスプレイ、村田製作所の薄型ピエゾスピーカー、ASUKANETの空中ディスプレイなどが人気がありました。しかしこれらの一般受けするレポートはTech-Onさんとか、EE Times Japanさんにお任せします。

私なりに考えた項を軸にまとめたいと思います。また関連するITpro EXPO 2013における事例も混じります。まずは開発のオープン化についてです。(一般受けしなさそうですね~。)

坂村先生のコンセプト

「家電の未来」というシンポジウムでTRONプロジェクトの坂村健先生(東京大学教授)が「オープン家電」というコンセプトを示されました。(資料はこちらからダウンロードできます。)

「オープン家電」とは組み込み機器のAPI(Application Programming Interface)をオープン化し、ユーザーも巻き込んで開発しよう、というコンセプトです。ユーザーにはそれぞれのニーズがあり、メーカーだけでは多様なニーズを満たせません。オープン化すれば、ボランティア・プログラマーが多様なニーズを満たすソフトウェアを作ることができます。

今でこそ「M2M」という言葉で機器間のネットワークが提唱されていますが、坂村先生は「80年代からそうなると思っていた」とのことです。

坂村先生は、そのようなネットワークの中で、組み込み(家電)、クラウド、ユーザーインタフェイス(以降UI)の役割分担を提言されました。

要点を挙げると以下になります。

  • 組み込みは高度なことをやってはいけない
  • 高度なことはクラウドにやらせればよい
  • 家電にUIはいらない。UIはネットワーク越しでよい

ODNA(Open Device Network Architecture)

坂村先生のお話より、私なりに一般化したアーキテクチャを考えました。以下の表のようになります。

  メタファ デバイス
センサ 目、耳、肌など センサ機器
長期記憶、高度な情報処理 大脳 クラウド
アクチュエータ※ 筋肉 家電など
ユーザーインタフェイス 言葉、手話 スマホ、タブレット

(※アクチュエータ:モーターのように物理的な仕事をする機械)

左列の4つの要素が一つのデバイスに入る必要はなく、ネットワークによって繋がれば離れていても構わない、ということになります。

もちろん複数の要素が一つのデバイスに入っても構いません。例えば家電は「センサ+アクチュエータ」と言えます。スマホは「センサ+UI」として使えます。全部が一つのデバイスに入るとロボットになりますね。

名前があったほうが便利なので、「センサ、大脳、アクチュエータ、UIの4つの要素」にて考えるアーキテクチャを、勝手にODNA(Open Device Network Architecture)と呼ぶことにします。(2013年10月13日現在、Google先生の知らない言葉を選びました。また「長期記憶、高度な情報処理」は長いので、メタファの「大脳」の語を使います。)

各社の製品、サービスもおおよそこのアーキテクチャで考えられます。

  センサ 高度情報処理 アクチュエータ UI
クラリオンのカーナビ マイク
(カーナビ)
クラウド
(Google)
なし カーナビ
スマートハウス 電気メーター、温度計等 HEMSユニット、クラウド 家電 PC、スマホ、タブレット
gooからだログ Continua対応製品 クラウド(gooからだログ) なし PC、スマホ、タブレット
ソニーのレンズカメラ レンズカメラ クラウド(PlayMemories Online) レンズカメラ スマホ
Xperia+Smart Imaging Stand スマホのカメラ、マイク スマホ Imaging Stand スマホ

アクチュエータに対応するデバイスがない製品・サービスもありますが、その場合は人間自身がアクチュエータと言えそうです。

多段階な情報処理

ODNAでは、大脳として高度な情報処理だけ取り出していますが、実際のところ情報処理自体は多段階になります。

 

メタファ

デバイス

センサの一次処理

視神経、聴覚神経など

センサ機器

短期記憶、バッファ、中程度の情報処理

脳幹

スマホ、タブレット、PC

長期記憶、高度な情報処理

大脳

クラウド

アクチュエーターの制御

脊髄反射

アクチュエータの近く

こうしてみると、現在では、UIのデバイスが脳幹を兼ね、大脳とのブリッジになっています。将来ウェアラブル・デバイスがUIになるとブリッジ機能はできないかもしれません。センサやアクチュエータが直接大脳と通信するかもしれません。

またここで言う「大脳の長期記憶」は、最近のバズワード「ビッグデータ」の語彙範疇に含まれます。

センサの充実

現在センサはアクチュエータやUIとともにデバイスに組み込まれていたり、スマホに入っていたりします。これからはセンサのみのデバイスも出てくるのではないかと思います。

CEATEC JAPAN 2013で展示されていたセンサデバイスや応用事例を紹介します。

生体情報

Continua Health Allianceやオムロンヘルスケアさんのブースにて、ライフレコーダーが展示されていました。

ライフレコーダーとはブレスレット型あるいは万歩計型のデバイスで、現在のところは加速度センサによる活動量計(昔の万歩計。今は消費カロリーも推計してくれる。)、睡眠量計です。将来は、脈波、血圧、SpO2などもインテグレートされるでしょう。

位置情報

GPSやWiFiのビーコンによる測位は既に広く普及しています。CEATECでは屋内測位に利用できる技術(超音波、BlueToothのビーコン、赤外線)が展示されていました。5年くらい前は屋内測位はIMES(GPS互換の電波を屋内に流すしくみ)が本命だと勝手に思っていたのですが、現在ではどうなんでしょう?

環境の情報

オムロンさんのブースに、2㎝角くらいのセンサーユニットが参考展示されていました。

計測項目は温度、湿度、照度、色温度、気圧、振動、紫外線量で、電波で測定内容が飛びます。ボタン電池で一年は持つとのことです。担当の方は何に使ったらよいかわからない、とおっしゃっていたので、インキュベータ(保育器)に使えるのではと、提案をさしあげました。(このアイデアは10年くらい前からあったのですが、企業は取り上げません。別稿にて書こうと思います。)

このようなセンサの農業利用の面では、東北スマートアグリカルチャー研究会さん(詳細は、東北大学大学院農学研究科「食・農・村の復興支援プロジェクト」のページにて参照できます。)、富士通さんのAkisai農場などで実証実験が進められているようです。

動画・音声

固定カメラだけでなく、アクションカム(自分の頭部や自転車、スノボ、サーフボードにつけて、スポーツなどのシーンをユニークな視点で記録するカメラ)もあります。またGoogle Glassのようなカメラ付き眼鏡型デバイスもできてきています。動画情報を処理して顔認識・表情認識やジェスチャ入力もできます。

ECHONETのブースには、360度カメラによるジェスチャ入力にて、家電をリモコンするコンセプトの展示がありました。リビングのテーブルにオブジェとして置かれるイメージ、とのことでした。

またオムロンさんのブースには表情から感情を数値化するデモがありました。

(見づらいですが、Natural、Happiness、Surprised、Anger、Sadnessがグラフ化されています。)

音声についても、既に成熟している感があるかもしれませんが、さらなる応用は考えられます。(ペットの鳴き声認識とか。)

オープン化

坂村先生は家電のAPIのオープン化を提言され、ソニーさんがレンズカメラのAPIを公開している事例を示されました。(モバイルについてもソニーさんはいろいろ公開しているようです。)

ODNAでは、4つの要素(センサ、大脳、アクチュエータ、UI)のAPIが公開されていれば良い、ということになります。大脳に関してはサーバ・サイド・プログラミングで作れますし、UIについてもPC、スマホ、タブレットであればソフトウェア作成可能です。Google Glassも開発ツールが公開されています。
これらを利用し、サーバとUIデバイス間の通信仕様をオープンにして開発を進めることは十分可能です。

従って、センサ、アクチュエータのAPIが公開されさえすれば、それらを利用した様々な製品やサービスを開発できるようになります。最近の「オープン・デザイン」という語も近いコンセプトだと思いますが、ODNAによるオープンな開発のコンセプトやら基盤やらをひっくるめて、単にODN(Open Device Network)と言うことにします。

ODNのメリット

ODNのメリットとしては以下が挙げられます。

  • メーカーが対応できないニッチなニーズに対しても、誰かがサービスを作るかもしれない。
  • メーカーが発想しなかったアイデアにより、イノベーションが起きるかもしれない。
  • 今まで部品としてセンサやアクチュエータをB2Bで売っていたメーカーは、B2Cビジネスとして展開することができる。
  • 新たなビジネスを創出しうる。

一点目は坂村先生がおっしゃられたことです。

二点目は「初音ミク」をイメージしています。単なるDTMツールが、副次創作可能なライセンシングとニコニコ動画という「場」で発展し、動画やゲームにまで発展しました。(もちろんキャラクターもよかったのでしょう。とするとやっぱりロボット的なものが受けそうです。)

三点目に関しては、まずは、秋月電子さんの電子工作キット、タミヤさんのミニ四駆のような、ホビー面から始まるかもしれません。そこから実用的なものができればフリーソフトウェアのように普及する可能性があります。メーカーは、B2Cによって売り上げが立つことを期待するかもしれませんが、それほどパイは大きくならないかもしれません。しかしB2Cによって次のニーズを把握し、B2Bに生かすことは可能だと思います。

四点目に関しては、オープン・ソース・ソフトウェアの事例があります。LinuxやApache等、ソフトウェア自体はオープンです。しかしそれらをニーズに合わせて最適化するビジネスがおきました。ODNでも同様のことができるのではないでしょうか。(これは希望的観測です。^^)

現状

CEATECで出店していた団体のオープン化の度合いをみてみましょう。

スマートハウスについてはECHONET Lite(IPベースの通信プロトコル)が公開されており、SDKも申請すればダウンロード可能です。リモコン・アプリくらいはすぐに作れそうですね。(もしかしたら既にSDKにサンプルとして同梱されているかも。)

一方、健康機器の情報交換アライアンスであるContinuaについては、WikipediaによるとContinua design guidelinesは非公開だそうです。BlueToothドングルも発売されていますが、APIが公開されている様子はありませんでした。

Continua対応BlueTooth端末のAPIが公開されれば、フリーの健康管理アプリが登場するでしょう。それは(CEATECで展示されているような)普通のグラフ表示をメインとしない、飛んだ発想のものかもしれません。するとContinua対応の健康機器を購入する人も増え、市場も活性化するのではないでしょうか。

課題

ODNの課題としては、権利問題と個人情報の問題が考えられます。

権利問題に関しては、メーカーがAPIを利用するに当たって提示するライセンス条項に関するものと、ODNが開発したサービスを副次利用するライセンス条項に関するものの2つが考えられます。前者に関してはソニーさんや初音ミクのクリプトン・フューチャー・メディアさんが前例になるのではないかと思います。また後者に関してはオープン・ソース・ソフトウェアのライセンスが参考になるのではないでしょうか。「初音ミク」も商用はフリーではありませんが、参考になります。

個人情報に関しては、CEATECのセミナーにて、総務省 情報流通行政局 情報流通振興課長 小笠原陽一氏、あるいは内閣官房情報セキュリティセンター 副センター長 谷脇康彦氏より、現在の個人情報保護法を見直し、新しいガバナンスやコンセンサスを検討する取り組みが始まっている旨のお話がありました。今後に注目します。

(匿名化されたデータだとしても、「Aさんが何時何分、何処何処にいて、脈拍が早く血圧も高かった」なんてわかるのは気持ち悪いですよね。)

まとめ

坂村先生の「オープン家電」のコンセプトから、ODNAという考え方を派生させました。(大変におこがましいですが。)

ODNAは、センサ、大脳、アクチュエータ、UIの4つの要素にて表され、それぞれのインタフェイスはオープン化されます。アクチュエータを人間自身とすると、一般の情報サービスにも当てはまります。

ODNによってイノベーションが起こることを期待します。(3Dプリンタもこれに絡められるでしょう。)

次回はGoogle Glassのようなウェアラブル・デバイスについてのご紹介と提案をしたいと思います。

コメントを残す