ヘルスケア・サービス(CEATEC JAPAN 2013レポート)

CEATEC JAPAN 2013レポート第3弾として、シャープさんの健康測定椅子とコンティニュア・ヘルス・アライアンスのブースを紹介し、問題点とその改善を考えてみます。

はじめに

CEATEC JAPAN 2013ではヘルスケアに関する展示、講演もありました。一般的な展示レポートとしては、Wireless Wire Newさんの「CEATECに見るモバイルヘルス・モニタリング機器のトレンド」をご参照ください。本稿では私見をメインにおいて展示を切りたいと思います。(辛口になってしまうかも。)

シャープさんの健康椅子

まずはシャープさんのブースでコンセプト展示されていた「ヘルスケアサポートチェア」です。

展示概要

座ることで体重、血圧、脈拍、体温が計測でき、計測値、リアルタイムのグラフ(心電と脈波?)、またガイダンスや医師とのコミュニケーションがそれぞれ3枚のディスプレイに表示されるというものです。

近くには現実的なシステムも展示していました。血圧計とSpO2の計測器が置いており、測るとタブレットに計測値とグラフが表示される(予定)というシステムです。自宅や職場に置き、毎日測ることで健康管理ができる、とのこと。

(SpO2:動脈の血液中のヘモグロビンの何%くらいが酸素と結びついているかという推計値で、赤外線センサで計測したもの。)

いずれもコンセプトを示すのみで、実際に測定した値は表示に反映されていませんでした。(健康椅子は可動して、「デザイナーさんとメカ屋さん、頑張ったな」という感じです。)

しかし残念なことに、シャープさんのコンセプトは、2005年くらいに各メーカーが健康機器に進出しようとしていた時と同じ轍を踏んでいるように思います。

問題点

私が思う問題点を挙げてみます。シャープさんだけでなく、各メーカーに共通します。

検査項目

職場などで年一回行われる健康診断では、問診票の記入と、身長、体重、視力、腹囲、聴力、X線、血圧、心電図、血液検査、尿検査が行われます。SpO2や脈拍は測ったことはありません。(内科医の診断では脈を取っているかもしれませんが記録されません。)

X線、血液検査、尿検査など難しいものは除いて、簡単に測れて健康管理に役立つなら週一くらいは測りましょう、というコンセプトでよいのではないでしょうか。

シャープさんの椅子では、脈拍やSpO2は必須ではなく、視力、聴力、(腹囲の替りに)体脂肪が測れればよいと思います。(スポーツジムに置くのであれば、運動前後の脈拍やSpO2を計測し、心肺機能を推定する、というコンセプトでもよいと思いますが。)

表示

まずリアルタイム波形は必要ありません。表示しても普通の人はわかりません。では医師が診ればどうかというと、診断できるかもしれませんが効率が悪いです。ちゃんと測れているかは装置がガイダンスし、また医師が診るべきかどうかのスクリーニングもシステムがすれば済みます。

次に、現状のアプリのほとんどが、数値と、横軸が時間軸のグラフを、一律に決められた順で表示します。数値が正常範囲に入っているかどうかや、日々の変化の傾向は大切だと思います。しかし人によって注意すべき項目は異なります。

改善案としては、医師の説明のイメージです。注意すべき項目の数値やグラフのみを表示し、その説明(正常範囲、最近の数値や傾向について)を文字あるいは音声で提示します。コンシェルジュのイメージ表示もありです。正常である項目についてはその後に一括表示で構いません。

加療中の人に対してはメッセージを変えるべきでしょう。高血圧で薬を飲んでいる人にとっては、「血圧が高めなので注意しましょう」と機械的に言われても大きなお世話です。

システムが自動対応してくれればですが、医療従事者がアノテーション(データに注釈をつけてくれること)をつける属人的サービスでもOKです。

医療従事者の相談

このようなシステムでは、健康ではなさそうになった時に病院に行くことをレコメンドするシステムなのではないかと思います。(既に加療中の人はかかりつけ医に相談できます。)

アノテーションやレコメンドするために、健康な人も含めたすべてのユーザーのデータを医療従事者が精査することが、コスト的に可能かどうかが問題です。一律に「医師の相談が受けられますよ」というサービスではなく、システムが自動的に、ある程度のスクリーニングすることが必要になるでしょう。

(ここまで書いて思いましたが、シャープさんのイスが「ヘルスケアサポートチェア」でなく、「遠隔診療チェア」なら良いのかもしれません。)

コンティニュア・ヘルス・アライアンス

続いてコンティニュア・ヘルス・アライアンスを紹介します。コンティニュアは健康情報の交換のための、共通プロトコルの策定団体です。現在のところBluetooth、USB、NFC上のプロトコルが策定されているようです。

健康機器

コンティニュアのブースには、各社の活動量計がありました。活動量計とは、加速度センサによって歩数計測と消費カロリー推計が可能な、万歩計型、あるいはブレスレット型のデバイスです。(睡眠量をうたっているものもありますが、恐らく動かないことをもって睡眠としているのではないかと思います。)

オムロンヘルスケアさんのコンティニュア対応機器です。(活動量計、血圧計、睡眠量計、体組成計。)

またエーアンドディーさんに関しては、動画がありました。

冒頭のWireless Wire Newの記事にあった、東芝さんのSilmee(心電、脈波、皮膚温、活動量)は見ていません。調べてみると実装技術が興味深いですね。

gooからだログ

gooからだログは、コンティニュア対応製品のデータが取り込める健康管理クラウドサービスです。ブースにてお話を聞くことができました。

法人契約をしていて、社員に活動量計を配布している事例もあるようです。画面表示はトレンドグラフで、レコードマニアしか気にしないのでは?という疑問がありました。しかし法人契約の場合は産業医が診ればよいというアイデアは、なるほどと思いました。

またTwitterやfacebookに投稿する機能もあるそうです。モチベーションになる人もいるとか。(何Kg減りました!に「いいね。」とか?)

問題点

コンティニュア自身は問題と思っていないのでしょうが、私が勝手に問題と思っていることを挙げます。

開発環境のオープン化

コンティニュアの設計ガイドラインはメンバー企業しかダウンロードできません。しかしそれらはメーカーに任せて、スマホやPCで利用可能なAPIがオープンであればソフトウェアの開発が可能です。しかし今のところ、そのような開発環境は見つかっていません。

コンティニュア対応Bluetoothドングルを発売しているアライヴさんは、測定機器を開発しているメーカーにはアプリのソースコードを提供しているようです。

またシャープさんはAndroid用に「SHヘルスケアインターフェイス」というミドルウェアを提供しています。(Google Playでは酷評ですね。^^;)しかし開発情報は見つかりませんでした。説明もメーカー決め打ちです。

以上のように、現在のところアプリケーション開発環境は完全にオープンではありません。

対応情報端末(PC、スマホ、タブレット)

gooからだログさんのページには対応OSとして以下が挙げられています。

  • Apple iOS 4.3以上
  • Windows XP SP2以降
  • Windows Vista、7(32bit/64bit)
  • (NFC対応アプリ)Android OS2.3.3以上
  • (Bluetoothアプリ)Android OS4.0.4以上(シャープ製端末限定)

PCのBluetooth対応に関して、現在のところパナソニックさんのPCは対応しており、その他はドングルが必要とのことでした。しかしこの辺りは、インテルさんが絡んでいることから、時間の問題のように思います。

しかしAndroidのBluetooth対応に関して、シャープ限定(先述のSHヘルスケアインターフェイスを利用しているため)なのが難点ですね。

クラウドと情報端末間の通信

コンティニュアが定めているのは健康機器と情報端末間の通信です。クラウドと情報端末間の通信についてお聞きしましたら、各社独自とのことでした。

このことについて調べてみると、PHR(Personal Health Record)の標準化について実証実験はなされているようです。アクセンチュアさんのページにまとめがあり、プロトコルについては平成22年12月15日あたりの資料を参照すればよいと思います。

(私にとってこれらの資料は膨大かつ難解なので、深追いしないことにします。)

改善点

ODNAに尽きるのですが、情報端末の健康機器側及びクラウド側(PHR)の、ミドルウェアのAPIをオープンにすればよいでしょう。そうすると在野のプログラマーが多様なニーズにあったアプリを開発するようになり、健康機器の売り上げも上がるのではないでしょうか。

さまざまな健康サービス

コンティニュアかどうかはさておき、健康機器のタニタさん、オムロンさん、キャリアのソフトバンクさん、ドコモさんも健康サービスを開始していますので、ご紹介します。

サービス 健康機器 情報端末 クラウド
からだカルテ
月¥580~
タニタ
タニタ社製品(体組成計、歩数計、血圧計) 中継器としてPCや携帯 グラフ、ダイエットサポート、レシピ
ヘルスプラネット
無料
タニタ
タニタ社製品(体組成計、歩数計、血圧計) Android(数値、グラフ)
iPhoneは手入力のみ、PCは詳細不明
からだカルテ、gooからだログ、ダイエットクラブ等各社サイトと連携
WMわたしムーヴ
無料
ドコモ・ヘルスケア※1
活動量計
オムロンヘルスケア社製品(ウェルネスリンク対応機器)
Android、iPhoneのアプリ配布  
ウェルネスリンク
一部無料
(会員はWMと統合)
オムロンヘルスケア
オムロンヘルスケア社製品(体組成計、活動量計、血圧計、婦人体温計、睡眠量計等) PC(別売りのNFC・RFIDドングルが必要)、Android、iPhoneの無料アプリ配布 有料で利用
長期データ管理、グラフ、ソーシャル
Softbank HealthCare
月525円
ソフトバンク
活動量計 iPhone、SBのスマホに順次対応 数値表示、健康相談、タイムマシン(データ、顔写真)、ソーシャル

※1:ドコモ・ヘルスケアは、ドコモとオムロンヘルスケアの合弁会社です。

各サービスのターゲットのメインはダイエットしている人のようです。体組成計(体重計)や活動量計を購入した人がアプリをダウンロードして使う、くらいのサービスです。

SMAPで大々的に広告しているソフトバンクさんは体組成計も販売しているようです。しかしデータ統合されている様子はありません。将来は統合するのではないでしょうか。

KDDIさんについては、ITPro EXPO 2013のM2Mのブースで健康機器と携帯のリンクの展示をしていました。開発はしているようですが、特筆すべき事項はありません。将来サービス展開するかわかりませんが、この分野では出遅れたようです。

これらのサービスの難点もオープンでないことにつきます。健康機器メーカー、キャリア、クラウドが垂直統合されていますので、機器の買い替え、キャリアの乗り換え、サービスの乗り換えが不自由です。

まとめ

CEATEC JAPAN 2013の、シャープさんとコンティニュア・ヘルス・アライアンスのブースを紹介し、私の思う問題点と改善案を提示しました。

批評的であるだけでは何ですので、別稿にて健康サービスを考えたいと思います。

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