健康サービスを考える(その3):生体センサのまとめ、提案、そして余談

昨今は、「ライフログ」、「ライフレコーダー」というコンセプトで、生活者が生体センサを身に着けて生活するライフスタイルが提案されています。スマホと連動する活動量計も販売されています。

本稿では、それらの生体センサをまとめて紹介し、その上で実現可能で実用的なライフレコーダーを提案します。また生体センサ周辺の話題についての余談もします。

生活者にとって、どのようなライフレコーダーが相応しいでしょうか?

生体センサ

まず、現在発売されている活動量計、それに脈波計測が加わった商品をまとめます。そして開発されているマルチセンサと新しい技術をご紹介いたします。

活動量計

タニタさん、オムロンヘルスケアさん以外の、万歩計っぽくない活動量計です。

名前 測定項目 連携端末 特徴
UP by JAWBONE 睡眠、歩数、距離、カロリー iPhone、Android(写真やバーコードで食事をとりこみ) 色が豊富
13,800円
Fitbit Flex
 
歩数、距離、カロリー、睡眠記録、バイブレーターアラーム iPhone、Android $99.95
日本ではSoftbankがサービス(月¥525)。
カラダフィット 歩数、距離、カロリー iPhone、Android、Windows8.1 女性に訴求。
¥3,980-
Nike+ FuelBand SE 活動量(NikeFuelという単位を提案) iPhone ¥15,750

恐らくセンサは加速度のみで、各推定値を算出しているのだと思います。普段の健康管理には活動量と体重、BMIの管理で十分そうです。

形は各社がリストバンド型ですが、カラダフィットはバッジのような特徴的な形です。万歩計のように腰につける使い方では、他の万歩計型やリストバンド型より女性は選択しやすいように思います。髪留めのような使い方も提案していますが、どうでしょうか?

またNIKEさんのプロモーションムービーが面白かったので、一つご紹介しておきます。

(2014年4月25日追記)

その後、「NIKEがFuelBand撤退」のニュースがあったり、それがガセだというニュースがあったりしました。(ギズモード・ジャパン「FuelBand撤退の噂をナイキが否定。新色モデルのリリースも予定」)

またサムスンがGear Fitというガジェットを発表しましたが、ギズモード・ジャパンさんのレビュー(「サムスン「Gear Fit」レヴュー:美しいデザインが台無し、全然使えない最新ウェアラブルデバイス」)によると酷評です。^^;

脈波センサ

ヘモグロビンは緑色光の吸光度が高いということで、緑色光を用いた脈波センサが開発されています。以下の商品はWEBのページ等で見る限りは緑色光脈波センサを利用していると考えられる腕時計型の商品です。

名前 測定項目 連携端末 特徴
MIO Alpha 心拍数 iPhone、Android スポーツ向け
¥24,800
BASIS B1 脈波(心拍)、3D加速度センサ、発汗センサ、皮膚温 PCやiPhoneと連携(Body IQ) $199
micoach SMART RUN 心拍数、GPS(スピード、距離)、加速度 ランナー向けに訴求。
¥47,250

以前から心電から心拍数を得るスポーツ向け腕時計はありました。時計をしていない側の指で時計の表側の電極を触ると、心臓からの回路が形成され心電が計測できる原理です。

MIO Alphaは、その後継の位置づけですが、脈波から心拍を得るので連続測定が可能です。

光を放射するのでバッテリーの時間が気になるところです。MIO Alphaはエクササイズモード(心拍測定をするモード)で8-10時間とのことです。BASIS B1はレビュー記事によると4-6日とのことですが、本当でしょうか。(間欠的に測定しているのかもしれません。)

(2013年12月8日:micoach SMART RUNについて追記。)

2013年11月1日に発売されたadidasさんのmicoach SMART RUNは、ランナー向けに、音楽プレーヤーと音声コーチ機能を内蔵しています。バッテリーはコーチ+音楽で4時間、音楽なしのマラソンモードで8時間です。

マルチセンサ

発売までには至っていませんが、ニュースリリースされているマルチセンサです。

名前 測定項目 連携端末 特徴
Silmee
東芝
脈波・心電・体温・体動   約25mm×60mm
WHS-2
ユニオンツール
心拍情報(周期・波形)、体表温、体動 Bluetooth4.0 41.0 mm×37.5mm×10.0mm
19,800円
(電極¥3500@10枚)
Scout
Scanadu
体温、心拍、SpO2、ECG、HRV、PWTT、尿検査、ストレス iPhone、Android こめかみにあてて計測

WHS-2は専用電極で体に貼るタイプです。Silmeeも心電を計るのであれば同様なのではないでしょうか。Scoutはウェアラブルではなく、体温計のように調子が悪いときに、こめかみにセンサをあてると各項目が計測できるしくみです。

また積水ハウスさんが、胸に張るタイプの生体センサを使ったHEMS(Home Energy Management System)の実証実験を開始するというニュースがありました(2013年11月18日のニュースリリース)。使うのはバイタルコネクト社のウェアラブルセンサで、測定項目は心拍数、心拍変動、呼吸数、表皮温度、体位、歩数、転倒検知、ストレス、消費カロリー、歩調分析、活動状況、睡眠時間、入眠、起床、睡眠覚醒判定、睡眠体位、睡眠段階、とのことです。

最近のセンサ技術

日経BPデジタルヘルスオンラインのニュースが報じている、日本大学の指だけで測れる血圧計が興味深いです。光センサだとは思うのですが、「位相シフト法」というのが全くの謎です。(特許出願済なので公表してもよさそうですが、中国等を警戒しているのでしょうか?)

また顔の動画を撮るだけで心拍が測れる、といったような研究もあります。

脈拍の伝搬時間が測れると血圧が推定できるので、将来は顔や手のひらの動画から、血圧が推定できる、なんてこともできるかもしれません。

血糖値を非侵襲で計測する技術も研究されているようです。これがウェアラブルでできれば、インシュリンを使っている方には朗報だと思うのですが、もう少し時間がかかるように思います。

ライフレコーダーの提案

現在発売されている商品から、最近の技術までを紹介しました。ここで実現可能で実用的なライフレコーダーを考えてみます。ドメインは健康サービスで、ターゲットは生活者です。

まず電極は不可です。ベタつく、周りが汚くなる、消耗品が必要、と面倒です。健康な人は使ってくれません。

次にどういう形にするか考えると、結局腕時計型に落ち着きます。センサを体に密着させるのに弱い締め付けは必要になると思うのですが、それが許容されるのは手首くらいかと思います。(腕時計も靴下も締め付けが嫌いな人はいると思いますが。)

基本機能としては、既に実用化されている加速度センサと脈波センサにて、活動量と脈波を計測します。脈波からは心拍数のほか、血管の固さやHRVによる交感神経・副交感神経バランスが推定できます。また脈が抜けたとか余計に打った、などの簡単な不整脈検出も可能です。

既存の心電が測れる時計と同様の心電計を組み込めば、心電測定時に脈波遅延時間から血圧が推定できます。時計をしてない方の指で時計を触った時に計測する心電計で構いません

以上をまとめると、提案する腕時計型ライフレコーダー以下の様なスッペクになります。

センサ 測定項目
加速度 活動量(歩数、カロリー、活動状態)
脈波 心拍数
血管の固さ:血管年齢 (加速度脈波より)
交感神経・副交感神経バランス (HRVより)
簡単な不整脈検出
心電+脈波 血圧の推計値 (脈波伝搬時間より)

心電は血圧の推計値を得るためだけの利用です。日本大学の技術のように、光で血圧が推定できるのであれば心電計は必要ありません。

生体データの中で家庭になじみの深い、体温も測れれば良いのですが、腕の表面の温度を計っても仕方ありません。橈骨動脈の平衡温が測れれば幾分深部温に近いかもしれません。またデータを集めてからの話になるのですが、深部温の推計ができればよいと思います。将来の課題です。

また脈波が測れるのならSpO2(動脈血のヘモグロビンがどのくらい酸素と結びついているかの推計値)も、とも考えそうですが、私は必須ではないように思います。スポーツ向けに訴求するか、あるいは睡眠時無呼吸症候群の疑いがある人、イビキがすごい人向けのソリューションを考えるのであれば、あってもよいのかもしれません。SpO2や血糖値は医療機器の位置づけでよいように思います。

バッテリーは最低1日持つようにします。価格は他の商品をリファレンスにすると2万円台でしょうか。マーケティング的なプライシングではありませんが。

(2014年4月25日追記)

提案の方はこの稿の後も思考実験を重ね、「ライフレコーダーまとめ」としました。よろしければこちらも御覧ください。

余談として

以上、ウェアラブルなセンサを念頭に考えてきました。本章では余談として、他の生体センサの話題(健康トイレ、任天堂、necomimi)を書きたいと思います。

健康トイレ

まず健康トイレをご紹介します。大和ハウス・TOTOさんのインテリジェントトイレⅡです。

測定項目は、尿糖値、体重、血圧、BMI、尿温度とのこと。

測定デバイスとしては、シャープさんのイスよりも、こちらの方が筋がいいと思います。トイレは、(尿検査できるだけでなく)ほとんど毎日、5分ほど静止する場所だから。体重計が便器と一体化し、血圧計が据え付けで腕を通す形式(あるいは指カフ)になれば、もっと良いと思います。

大和ハウスさんのターゲットとは異なりますが、社員の健康管理のために企業向けに訴求してみてもよいかもしれません。

Wiiバイタリティセンサー

昔(2009年)、任天堂による生体センサとエンタテイメントを融合させる試みである、「wiiバイタリティーセンサー」の発表がありました。これを書いていて、「そういえばどうなったんだろう」と思って調べてみました。

2013年6月27日の株主総会でwiiバイタリティーセンサーについての質問があり、社長がそれについて答えた、というニュースがありました。(N-Wii.netさん、「[Wii] 岩田社長、「バイタリティーセンサー」の”その後”についてコメント」、2013年7月1日)

その株主総会の質疑応答から引用します。

「人間の脈の波形を見ると、自律神経の働きとして、どれくらい交感神経が働いていて緊張しているかということや副交感神経がどれくらい働いていてリラックスできているかということを定量化できる」ということが学術的に言われておりまして、それを前提にいろいろな開発を進めてきました。しかし、ある程度でき上がってから社内でかなり大規模なモニターをしてみたところ、その理論どおりに反応が表れないという人がいることもわかりました。例えば、「100人の方に試していただいて、90人は期待どおりに動くが、10人には期待どおりにならない」というものを商品化できるのか、ということを考えました。「発表しただけで、その後、具体的なことに言及しないのはおかしい」というご批判については申し訳なく思いますけれども、一方で、いったん発表したので、問題があると分かっていながら市場に出すというのはもっとよくないことだと思います。

どうやらHRV(あるいはRRV)の利用を考えていて、個体差があってうまくいかなかった、ということらしいです。そして結局、

いずれにしても、現在は、「商品として受け入れていただくには不十分な仕上がりだ」という判断で発売がペンディング状態になっております。

HRVの利用は難しいと思いますが、ホラーゲームで単に自分の鼓動(とシンクロした音)が聞こえる、というだけでも面白いのではないかと思います。それだけのために数万円の追加機器を買ったり、指にクリップを嵌めるという面倒を、顧客に受け入れてもらえるか課題は大きいですが。

遊園地の、乗り物に乗るホラー系のアトラクションには使えるかもしれませんね。乗り物の捕まる部分に脈波センサが仕込めます。よくテレビ番組で、心拍数を計ってお化け屋敷や絶叫マシンをレポートする企画がありますが、それの実体験もできます。

necomimi

necomimiは上のコンセプトムービーのように、脳波を読み取って感情を耳が表現する、というガジェットです。ムービーから推測するに、前額部と耳朶(おでこと耳たぶ)の電極から脳波を測定しているようです。

脳波は50μVと極めて小さく、ノイズに極めて弱い信号です。私の知っている範囲の医療における測定では、皮膚の角質を処理し、導電ペーストを塗るなどの、電気抵抗を小さくする工夫をしてやっと測定できます。中には、電極のペーストの中にトゲトゲの樹脂を置き、押しつけることで角質層を突き破る、というような製品もあります。

以上のような浅見により、当初「necomimiは脳波よりもノイズ成分を解析して適当に動いているのだろう」と思っていました。

しかし、製作元のNeurosky社の同様センサをレビューしているムービーの波形を見ると、ちゃんと測れているように見えます。新しい測定技術があるのでしょう。

「光トポグラフィ」や「NIRS」と言われる赤外光を利用して脳の血流を評価する技術も、価格が下がれば同様の商品に使えるようになるかもしれません。

最後に、necomimiを企画したneurowearさんの最近の企画、気になるものの自動記録をご紹介します。マーケティング調査に使えそうですね。

まとめ

現在販売されている、またもうすぐ発売される生体センサを紹介しました。

現在の主流は活動量計ですが、マルチセンサも開発されています。面倒なセンサや医療的な計測はオミットして、実現可能なウェアラブルセンサを提案しました。

次回は、センサでの計測を、どう生活者に提案していくかを考えたいと思います。

8 thoughts on “健康サービスを考える(その3):生体センサのまとめ、提案、そして余談

  1. (株)デジタル・オフィス 松前一夫

    縦断的に、お調べになっておる事に敬意を表します。
    もし、このような情報をお持ちでしたら、ご教授頂けますと幸いです。
    【探している物】
    脈拍数、転倒を、お知らせ出来るセンサー
    【用途】
    高齢在宅者の、見守り(ICTによる地域包括ケアへの対応)
    定性的に、 脈が30切ったかも、、転倒したかも、、程度のアラート発信で可
    定量的な、脈拍数や、転倒速度などは、全くいらない。
    【その他の要件】
    30時間前後の連続稼働。 入浴でも防水対応。
    【類似】 フィリップス社 FD100-J (脈拍なし)

    Reply
    1. 長田@悠雀堂 Post author

      コメントありがとうございます。
      残念ながら、私には、お探しのセンサは思い当たりません。
      # 転倒の通知は、子供にも需要がありそうですね。

      Reply
  2. 林 森太郎

    バイタルサインの連続測定可能な時計のようなウェラブル。
    私も探しています。

    Reply
  3. (株)デジタル・オフィス 松前一夫

    お問合せしておきその後、だんまりで恐縮です。
    今現在(2015/03/30)セイコーEPSONの、PS-100で、評価中です。
    看取りの為の、脈関連は2例ほど看取りデータを取得して使えそうです。
    又、転倒したかもアラートも、目的を90%達成しました。
    かなり、ファームの変更を実施頂き、やっと、製品化の目途が立ちました。
    5月目途に、発表したいと思っていますが。。。どうなりますか。。
    まずは、ご報告です。

    Reply
    1. 長田@悠雀堂 Post author

      わざわざのご報告ありがとうございます。
      システムの側なども、工夫のしがいがありそうですね。
      ニュースなどで製品の情報をお聞きすることを楽しみにしています。

      Reply
  4. 岡庭 貴志

    はじめまして。株式会社 イメージ ワンの岡庭と申します。
    記事を拝見させて頂きました。大変勉強になりました。

    弊社は医療系ITソリューション、医療機器販売を行っております。
    2014年12月12日に、在宅での心電モニタリング用心電計「duranta」(医療機器)を
    リリースいたしました。
    クラウド管理で、心拍数監視とアラートメールの機能もございます。
    http://www.imageone.co.jp/duranta/index.html
    (昨年12月11日にテレビ東京のトレンドたまごでもご紹介頂きました)

    在宅医療・介護向けのウエアラブル機器は今後も様々な製品が出てきそうで楽しみですね!
    またお邪魔させて頂きます。

    Reply
    1. 長田@悠雀堂 Post author

      コメントありがとうございます。ホームページを拝見致しました。
      十数年前に私も病院内の同じようなシステムを考えていました。商品化にはなりませんでしたが。
      その時は、アラートはSMSで構想していました。(SMSだと受信確認ができますので。当時は院内携帯禁止でしたが。)
      現在ですと、AUの場合URLや電話番号があるメッセージはデフォルトでブロックされるので、導入が面倒かもしれませんね。
      昔を思い出しての余談でした。

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