健康サービスを考える(番外編):「着るだけで生体信号が取れる繊維」について

2014年1月30日に「速報:東レとNTT、着るだけで生体信号が取れる繊維 hitoe 開発。ドコモが年内にスマホ連携開始」(engadget日本語版より)というニュースがありました。これについての感想とともに、さらなるアイデアを提案します。


着るだけで生体信号が取れる繊維

技術について

着るだけで生体信号が取れる繊維「hitoe」の技術については、東レさんの1月30日のニュースリリースに、より適切な記述がありました。(ドコモさんのニュースリリースもほぼ同じ。)

極細のナノファイバーの隙間に導電性の高分子を浸潤させた生地により、着るだけで心拍・心電情報を連続的に計測することができ、洗濯して繰り返し使うことができるそうです。

冒頭のニュース記事では、黄色いシャツを痩せた方が着ていますが、実際はムービーの白いシャツの方のように、ピッタリしたものを着なければ測定できないのではないかと思います。

今までは連続で心電を取るのに、胸にベタベタする使い捨ての電極を貼らなければならなかったりしました。手間がかからずに測れるのは、大変に素晴らしい技術だと思います。しかし左肩辺りの機械(たぶんAD変換と発信機)まで洗濯してしまわないように工夫が必要ですね。

サービスについて

ドコモさんがこの技術でどのようなサービスを作るのか、たいへん興味があります。これまで書いてきましたように「心拍数を数字とグラフで表示する」だけでは、普通の人はあまりメリットを感じません。スポーツ向けにしても、MIO Alphaやmicoachのような腕時計型のほうがイケてるように思います。ドコモさんは果たして、誰をターゲットユーザーにしてどのようなサービスにするでしょうか?

既に考えているでしょうが、お年寄りの見守りというターゲットはありかもしれません。(ドコモのスマホのターゲットユーザーと被るかは謎ですが。)

一点、ニュースリリースにあるように「)本品は医療機器ではありません」。ですので、現在のところはあくまでも「健康機器、健康サービス」の位置づけのようです。(医療機器・サービスと健康機器・サービスの違いについては別稿にて考察しました。)

ジャスト・アイデア

このニュースを見て、思いついた私のアイデアを僭越ながら書きたいと思います。

呼吸測定

呼吸が測定できれば、心電と組み合わせて見守りの精度も上がります。活動量計と組み合わせて、運動時の評価もできます。「心拍変動の応用を考える」に書きましたように、心拍変動の周波数解析を利用する際にも、その精度向上に呼吸は必要ですし、ひどいイビキや睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングにも使えそうです。

呼吸測定には既存の2つの技術が考えられます。1つ目は胸回りにぐるっと回路を生成し、そのインピーダンスを測定する方法です。2つ目は、生体信号より高周波の信号を電極に流し、インピーダンスを測定する方法です。

1つ目の方法は、医療やスポーツ向けの製品に昔から利用されています。導電性生地のインピーダンスは伸縮により変化するだろうという仮定によります。また生地のインピーダンスも調整する必要があるでしょう。

2つ目の方法は、医療用モニタにつかわれている方法です。しかし電極部分と体の接触インピーダンスが変化しそうなので厳しいかな、と思います。

ただし両方法とも、体動や発汗の影響は受けそうです。また常時信号が必要なので、バッテリーの問題もあります。

脂肪量と体温

脂肪量が推定できればメタボリックシンドロームに対する注意報を出すことができます。技術的には呼吸測定の2つ目の方法と同じ原理で、お腹まわりの脂肪量が推定できます。

体温が推定できれば、ライフレコーダーを提案した時に考えたように、朝起きた時に「熱っぽいようですね」と注意報を出すことができます。こちらは「あったらいいな」の世界なのですが、充填する導電性高分子に温度応答性のあるものが見つかれば実現できそうです。文字どおりの腋窩温(わきの下)が測れますね。

脂肪量も体温も、常に測っている必要はありません。測りたいときに静止することをアプリがうながせば、ノイズも低減します。

全身タイツ

スポーツ市場向けにhitoeで全身タイツを作成し、全身の筋電を測定します。プレーヤーの筋肉の動作を時系列に分析できるので、野球、ゴルフ、テニス等のスイングが分析できるかもしれません。陸上競技にも使えそうです。

スポーツ向けは一種の嗜好品ですので、単価を高く設定できます。そしてなにより、東レさんは「炭素繊維を、航空機や船舶より前に、まずゴルフクラブや釣り竿などの嗜好品から展開した」というビジネスモデルのノウハウを既に持っています。

まとめ

東レさんドコモさんの「着るだけで生体信号が取れる繊維」は素晴らしい技術だと思います。ドコモさんがどのようなサービスを作るか、期待しています。(しかし私は別のキャリアを使っているので利用する機会はないと思いますが。^^;)

「心拍数を表示します」というだけのアプリケーションでは一般の人への訴求はいまいちです。ジャスト・アイデアとして、同技術での呼吸、脂肪量、体温の測定を考えましたが、これだけ測れれば訴求力のあるアプリケーションが作れそうですね。

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