2014年5月28日から30日にかけて、東京ビッグサイトで行われた「ワイヤレスジャパン2014」に出かけてきました。その展示会で個人的に目を引いたものについて、独断と偏見でレポートいたします。内容は、TransferJet、FlashAir、屋内測位、運転中の居眠り防止、の4点です。
まずは東芝さんのブースにあったTransferJetとFlashAirからです。
TransferJet
TransferJetとは数cmの近接距離で高速伝送(物理層で最大560Mbps、最大実効レートで375Mbps)ができるという技術です。既にスマホとPCに接続する小さい端子を家電量販店等で販売しているとのこと。
またキャリアとも実装を交渉中で、コンビニのキオスク端末で動画が購入できるようなサービスも検討中とのことです。
容量の大きいデータ、というと動画しか思いつきませんが、例えばホームメディアサーバーに録画されているデータを、出掛けの隙間時間にスマホにシンクロして持ち出す、なんてことが出来そうです。(録画番組をネットワーク経由で見ることは今の製品でも出来ると思いますが、ハイビジョン画質で見ようと思ったら、すぐにキャリアの転送制限に達してしまいそうです。)
数センチという制限はありますが、アイデア次第でいろいろな使い方が出来そうです。巨大なデータだけど短時間で転送したい、というニーズはありそうでしょうか。
FlashAir
東芝さんのFlashAirは、SDカードの中に無線LANとHTTPサーバーが入って、中のファイルを外部の端末(スマホ、タブレット、PC)から簡単に出し入れできる、という製品です。美人の女優さんが絶賛CM中とのことですが、テレビを見ない私にはさっぱりわかりません。
APIの公開
他に同様の製品もありますが、FlashAirが素敵なところは、「APIが公開されている」というところです。(「FlashAir™ Developers」のドキュメントのページ参照。)APIといっても、HTTP GETでパラメータ渡しをするだけなので、簡単にプログラミングができます。WEBDAVのコマンドを採用しなかったことが、かえって取っ付きやすいですね。
展示員さんに聞いたところ、「公開していないAPIも多数あり、ニーズがあれば公開するかも。通信距離は10mくらい。OSはTron。」とのことでした。
HTTPサーバーであるFlashAirサイドのプログラミング(つまりCGIの自作)は今のところできなさそうですが、それでもアイデア次第でいろいろなことが出来そうです。
前回の「タブレット導入した学校でのダウンロード障害を考える」に教室内P2Pのアイデアを示しましたが、以下にその他のアイデアを示します。
組み込み機器の開発中
組み込み機器の開発中は、頻繁にソフトウェアをアップデートします。もしその機器がソフトウェアをSDカードからアップデートする仕様なのであれば、FlashAirを使えばカードの抜き差しが必要ありません。FlashAirのIPアドレスをリストにして、アップデート・ファイルを複数の機器(のFlashAir)にいっぺんにPOSTするPCアプリも作ることができます。
また機器のコンフィグレーションも必要です。SDカードの任意のフォーマット(例えばiniファイル形式)からコンフィグレーションを読み込む設計にしておけば、上の要領で複数機器に同じ設定も出来ます。単一機器に関してもコンフィグレーション設定のUIとフォーマットの生成処理をHTML + javascriptで記述すれば、そのファイルをFlashAirに置くだけで外部から簡単に設定を変えることが出来ます。
計測機器を用いた研究
研究等で計測機器からデータを取り出したい、という要求はよくあります。しかしデータの取り出しがRS-232Cだけであったり、TCP/IPが実装されていても通信コマンドが面倒だったり、そもそも必要なデータを外部に出力していなかったりすることがあります。
そんな時も、計測機器がSDカードにデータファイルをストアする仕様であれば、そのファイルを直接取り出すことが出来ます。
しかし動作中の計測機器からデータを取り出したいのであれば、計測機器側のプログラムでそのファイルを排他ロックでなく共有ロックにするか、あるいは時折クローズやコピーが必要かもしれません。(この辺りはファイルシステムやSDの仕様にもよりそうです。)
またデータファイルのフォーマットがテキスト等であれば問題なさそうですが、複雑なフォーマットであれば読み取りソフトを作るのが結局面倒です。
アイデアのまとめ
以上の2つのアイデアは、機器に有線無線を問わずネットワーク・インタフェイスがあり、FlashAirと同等のHTTPサーバーおよびCGIがあれば可能です。私も組み込み機器用HTTPサーバーと、それにリンクするCGIライブラリを作ったことがあります。
それらを実装/開発しなくても、FlashAirならSDスロットに入れるだけなので簡単ですね。
またCGIが自作できれば本当に「最小のWEBサーバー」です。FlashAirのファームウェアはユーザーがアップデート出来るようになっていると思いますので、ユーザーのプログラムがリンクできるような仕組みか、簡単なスクリプトエンジンが実装されれば、さらなるアイデアが考えられるかもしれません。
屋内測位
UWB(Ultra Wide Band:超広帯域無線)に関するブースがありました。UWBは、少ない電力(消費面でも人体面でも)で通信のほか測位や位置検出が可能な技術、とのことです。
しかし、現在の私の興味は屋内測位にあります。海外から来られた方が、東京の地下ダンジョン(地下だけに限りませんが)で迷子にならないように、多言語案内システムの整備を2020年に向けて行わなければなりません。(いや私はなんのステークホルダーでもありませんが。^^;)
そこで説明された方に、「これから屋内測位は重要になると思うのですが、いま一番有力なものはなんですか?」と聞いてみましした。すると…。
「今、これが有力といったものはありません。」
(´・ω・`)。「iPhoneがビーコンを実装したのも見切り発車ですか?」「そうですね。」
いまこれを書きながら当日の会場案内図をみると「展示会場内でBeacon体験!」という囲みがありました。事前に知っていればこちらも試してみたことでしょう。
運転中の居眠り防止
ユニオンツールさんのブースに「センサでRRIを測定して運転中の居眠り防止」というポスターがありました。
もしかしたらRRI(R-R Interval)といっているものが、私の思っている心拍変動(HRV、RRV)とは違うかもしれませんが、以下HRVのことだと仮定してのお話です。
ユニオンツールさん
ポスターを見て興味を持ち展示員さんに聞いてみると、HRVで居眠り防止になりうるという論文があり、それが可能かどうか、協力者があったらデータ収集したい段階、とのことでした。
そこで私も「確かにHRVで自律神経バランスが分かる、とはいわれているけど、『居眠り防止』というのであれば他のメーカーさんがやっている瞬目検出とか、いろいろなデータと組み合わせたほうがよいのでは」とお話しました。(展示員さんはあまり詳しくなかったようです。)
しかし、居眠り防止のためにベタベタする心電電極を貼る、というのもユーザーには心理障壁になりそうです。
JUKIさん
近くのJUKIさんのブースにも居眠り防止システムがありました。
こちらは運転席のシートに置いたセンサで、大動脈の振動を検出する、というものでした。展示員さんとお話できなかったので詳細は分かりませんが、脈波検出をしているのであればこちらもHRVだと推測できます。
居眠り防止システムについて
HRVだけで「居眠り防止」は、ちょっと難しいかな、と私は思っています。さらにアラームを鳴らすだけの装置でもダメです。
居眠りの原因としては、運転継続時間、疲労、普段の睡眠パターン、あるいは睡眠時無呼吸症候群などが考えられます。
疲労や居眠りしそうな状態のセンサとしては、HRV、瞬目の他、ハンドルやアクセル、ブレーキ等の操作パターン検出もあります。
環境(市街地なのか国道や高速なのか、昼か夜か等)も関係しそうです。
そして居眠り防止策としては、本質的には「すぐに休め」でしょうね。センサがなくても疲労や居眠りしそうな状態はある程度自覚できますが、そのときに無理して運転を続けさせてしまう運営システムが問題のように思います。
例えば運転業務において、管理会社に運転・運転者の情報を伝送してモニタし、疲労があるようであれば電話等で「休みなさい」と指示ができるようなシステムであればよいのでしょう。
現在は課題の一部を研究している段階であると思います。システム化にはより大きな取り組みが必要そうです。
個人的な全体感想
まず私自身が「無線がわかっていない」ということがわかりました。学生時代に勉強した(?つもりの)電磁波、PSK等変調法、はたまた誤り訂正符号などの知識は役に立ちません。
技術ブランド名とそのカタログ・スペック(到達距離、回折の度合い、伝送速度、ノード数、その他の特徴)の暗記が必要そうです。そうしないと、貼ってあるポスターがよく分かりません。
ワイヤレスジャパンだけでなく他の技術展示会もそうなんですが、出店者には、私のように詳しくない人間にも目を引くような大きい字のポスターを一枚展示して頂きたいと思いました。例えばTransferJetなら、「3cm、40Mbyteが1秒。キオスク端末で動画コンテンツの販売もできるよ!」というような。(技術を知らない人は来なくて結構、というブースでしたら従来のポスターでも良いのですが。)
あとワイヤレスジャパンは、展示員さんに突っ込んだ話を聞いても名刺交換を要求されないのがよいですね^^;。(コンパにゃーのノベルティ攻撃も少ないし。)
まとめ
ワイヤレスジャパン2014の展示のうち、個人的に興味を持ったものについてのみレポートしました。以下の2つに分類できます。
- 確立した技術で、アイデア次第でいろいろとできそうなもの。
- 課題を設定して、それに対して技術利用を考えているもの。本質的にはより大きな取り組みに持っていく必要がある。